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「ポストコロナの関西発ベンチャー」

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(左)ハックベンチャーズ金沢崇氏
日本合同ファイナンス(現ジャフコ)から独立系ベンチャーキャピタルの草分けである日本テクノロジーベンチャーパートナーズに参画。ベンチャーキャピタリストとして20年以上の活動経験を有し、多数の投資先エグジット実績を持つ。2015年からハックベンチャーズ株式会社のマネージングパートナーに就任。

(中)アカデミック・ギャングスター中川卓也氏
1983年京都大学卒業。事業会社を経て、主に外資系投資銀行に勤務。キダー・ピーボディ証券(GEキャピタル)外国株式部及び米国NY本社勤務、バークレイズ証券 キャピタルマーケット部ダイレクター、HSBC証券  資本市場部門部門長兼マネージング・ダイレクター、みずほ証券グローバル投資銀行部門事業開発総括部長、ネスレ日本株式会社 総務人事本部人材・組織開発部長、プルータス・コンサルティング エグゼクティブ・ダイレクター等を歴任の後、当社を2019年創業。
マクロ経済/業界分析、グローバルマーケッツ(株式、債券、融資、デリバティブ)、M&A/業界再編、デット/エクイティ/ストラクチャード/ファイナンス、複合金融商品・証券化組成、オルタナティブインベストメントファンド、IR/コーポレートガバナンスアドバイス、組織・人材開発制度設計開発、企業価値第三者評価、等の業務に従事。

<レポート>

2020年7月16日 大阪インデペンデンツクラブ



金沢 崇 氏(ハックベンチャーズ株式会社 代表取締役 マネージングパートナー)

中川 卓也 氏(株式会社アカデミック・ギャングスター 代表取締役)

<モデレータ>國本 行彦(株式会社Kips 代表取締役)


國本:新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が4月初旬に発令されました。解除後も感染者数は落ち着く気配を見せず、新たな生活様式(ニューノーマル)への移行が叫ばれており、ベンチャーが取り組む課題やビジネスモデルにも変化が起きています。関西を中心にベンチャーキャピタル投資を行うハックベンチャーズ金沢さんに、まずはコロナショック前後における投資動向について伺いたいと思います。

金沢:投資先企業がコロナの影響を受けてファンダメンタルズがどう変わるか、これを見極めて足元を固めようというのがここ3ヶ月の主な活動でした。東京では投資検討から払込みまで全てオンラインで完結するケースも出てきているようです。我々も新規投資についてはコミュニケーションを絶やさないようにしながらじっくり取り組んでいる状況です。

國本:ベンチャー支援を通じた地方創生やアカデミア研究シーズの事業化に取り組むアカデミック・ギャングスター中川さんからは、大学や大学発ベンチャーの変化についてお聞かせいただけますか。

中川:コロナショックの影響に関わらず、大学を取り巻くベンチャーエコシステムは未成熟だと感じています。事業経験のある人材不足、知財の帰属先、ファイナンスに関する情報非対称性、枚挙に暇がありませんが、それでも少しずつ変革の動きは出始めています。関西における課題としては、優れた大学が多くありながらも横連携ができていないこと。文科省の次世代アントレプレナー育成事業であるEDGEプログラムに、主幹機関として関西の大学は1校も採択されていません。このコロナショックが外圧となって、積み上がってきた課題に向き合う契機になればと考えてはいます。

國本:ポストコロナにおける関西の投資テーマや期待できることは何でしょうか。

金沢:これまではものづくりやIoTが大きなテーマであったと思います。ソーシャルディスタンスが求められる中で、我々の投資先では月額定額サービスでおむつを配送するBABY-JOB(株)、野菜ECを手掛ける(株)坂ノ途中が急成長しています。ポストコロナにおいてはロボットやモビリティ分野に注目していて、パナソニック等の大手企業出身の起業家が経営する楽しみな投資先もあります。

中川:移動の制限は当面続くので、関西に限らず地方全般に言えるのは、遠隔の医療や教育、VR/AR、これらに関わるセキュリティ技術は有望だと思います。大阪はエンタメで勝負してほしいですよね。足元にある素晴らしいコンテンツには気づき難い。観光面では回遊がキーワードで、都市間で連携をして動機付けを強める工夫が必要です。グローバル拠点都市として大阪・京都・兵庫が1地域として選出されたので、そこに期待したいと思います。

國本:関西は大手企業が数多く存在し、ベンチャーとのオープンイノベーションが起きやすい環境です。

金沢:関西経済同友会がベンチャーフレンドリー宣言を始めて以降、大企業の間口はかなり広がった印象です。電鉄系はじめ、コーポレートベンチャーキャピタルとしての活動を始める事業法人も増えました。首都圏のベンチャーが関西圏の大手企業インベスターから投資を募るケースも出始めています。

中川:関西人なので敢えて申し上げると、大阪にはもはや基幹産業はないと思っています。主要な機能は全て東京にいってしまった。むしろ中堅企業の方が資金力もあり人材や新規事業に課題があるので、ベンチャーと相乗効果が見込めるのではないでしょうか。これによって中堅企業がIPOして大きなうねりになる可能性もある。東京のミニチュア版をやる必要はなく、関西だからできるモデルを構築することが重要です。

國本:20年前は未だベンチャーだったシナジーマーケティング谷井さんやさくらインターネット田中さんがIPOを果たして、後進ベンチャー育成にも力を入れています。起業家同士のネットワークは他の地域にはない関西の強みだと思います。

金沢:先輩起業家が後輩起業家を支援するプログラム「Booming!」の出身である(株)スマレジが昨年マザーズ上場を果たし、その経験値を継続して循環していく仕組みが出来つつあります。若い上場創業者が一定数いることも強みですが、関西人ならではの距離感で気軽に相談できる文化も起因していると思います。

中川:関西で成功している起業家は、東京と大阪を行き来して情報を取捨選択できるハイブリッド型が多いです。投資家や経験値のある専門家人材(弁護士・会計士)は依然として東京に集中している。そのために、アカデミック・ギャングスターでは起業家サイドに立ちながらも大学・行政・地場金融機関と密にコミュニケーションを取り、各地域に共通言語をつくることに注力して取り組んでいます。先輩起業家の知恵や経験に頼りながらも、支援者側の層に厚みが出てくると関西はもっと良くなります。

國本:最後に、ポストコロナに向けて、今後の抱負を聞かせてください。

金沢:VCも機関投資家から高いパフォーマンスを要求され、淘汰されていく時代になります。VC投資の基準もそれに合わせて厳しくせざるを得なくなりますが、大きく飛躍するベンチャーと共に関西らしい魅力ある事業を創っていきたいと思います。ポストコロナは起業家も投資家も結果を出すことが求められる。そう肝に銘じて邁進していきます。

中川:東京で活躍する起業家に実は関西出身は多い。海外も同様。関西の強みは「人」なのです。ポストコロナにおいて、転職や新規創業など人材流動性は高まります。そうなれば、首都圏で成功体験を積んだ人が関西に帰ってくるケースも増える可能性があります。以前にも増してヒト・モノ・カネと環境は整いつつある中、コロナショックを好機と捉えて行動できる人だけが勝ち残ることができる時代になるでしょう。私自身も、そういった本物の人材への支援を惜しみなく提供しつづけていきたいと思います。

※「THE INDEPENDENTS」2020年9月号 - P6-7より
※冊子掲載時点での情報です