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「選択肢としての起業家」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



確かに起業家志望の若者は増えている。筆者の周辺でも大学生で起業家を目指したいという学生が出始めたし、相談も受けている。九州大学では2017年に「九州大学起業部」というサークルが立ち上がった。彼らのサイトを覗いてみると、部員募集のチラシが掲載されていて、そこには「サッカー部がサッカーをするがごとく、起業部は学生起業します」とある。聞くと正に「九州大学起業部」は「九州大学サッカー部」と同じく、数百名の起業を目指す学生が切磋琢磨して起業家を目指す学生サークルの一つなのだそうだ。

とはいえ、日本の起業活動はグローバルにみるとまだまだ低調だと言っていい。

まず『2019年度中小企業白書』で統計数値の取れる直近の2017年度の日本の開業率を見ると5.6%に過ぎない。過去からのトレンドを見ると、2008年のリーマンショックの年を除き2000年代に入って上昇トレンドにはあるが、その水準は他国と比較して低い。

残念ながら『白書』には米国の開業率の最近の数値が出ていないが(直近が2011年で9.3%)、英・仏の2017暦年の13%台から見るとかなり低い。最近低下傾向にあるドイツでさえ2016暦年で6.7%と日本と比較して高い。

また米国バブソン大学と英国ロンドン大学ビジネススクールがグローバルな起業動向調査として始めたGME(Global-Entrepreneurship-Monitor)で、TEA(Total-Early-stage Entrepreneurial Activity=総合起業活動指数)、すなわち事業の開設準備段階(=「誕生期」)から創業後3.5年以内(=「乳幼児期」)にある「起業活動者(=起業家)」が成人人口に占める割合を示す数値を見てみても、直近の2018年で5.3と米国の15.6、中国の10.4と比較してかなり低く、調査対象国約50か国中で下から数えて5番目となっている。

このように、日本の起業活動は若者を中心に過去から見ると現状多少の盛り上がりを見せてはいるものの、マクロ的にみると他国と比較してまだまだ低調だと言わざるを得ない。

では何故日本の起業活動は低調なのだろうか。

先日、起業家や起業(家)活動を長年に亘って調査・研究されてきた研究者と話す機会を得た。その方に、これまでの日本の低調な起業(家)活動の原因について質問したところ、即座に「それは、日本では起業、ないしは起業家になることが若い人たちの職業・仕事選びの選択肢の一つになっていないからだ」との答えであった。

確かに、戦後直後の混乱期を除いて、日本の戦後の高度経済成長期以降は組織に職を得て安定的な収入が得られる(と思われている)給与所得者=サラリーマンとして生きる生き方が尊重された。この状況は今の大学生を見ても大きくは変わっていないようだ。筆者の周りの学生を見ても多くは大企業への就職(就社?)をまずは考えている。

人の生き方に良いも悪いもないが、これからの時代、筆者は若い人達には自立した生き方を望みたい。その意味でこの先、起業家という生き方が少なくとも若者の職業選択肢の一つになって欲しいし、そのためにはどうすればいいかを考えてみたい。

※「THE INDEPENDENTS」2020年8月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です