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「従業員の引き抜き行為の違法性」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

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東京地裁平成18年12月12日判決(平成15年(ワ)18743号)


 今回は、従業員の引き抜き行為の違法性を判断した事例を紹介します。

1 事案

 本件は、原告が一般消費者向けのLPガス供給事業を主に行っていたところ、原告の代表取締役の地位にあった被告Aが被告Bと共謀し、被告Cを設立した上で、原告の従業員らに虚偽の情報を伝えて原告から退職させて被告Cへ移籍させたという一連の行為につき、被告らの従業員引抜き等による共同不法行為の成立を主張し、損害の賠償を請求した事案です。

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2 東京地裁の判断

 東京地裁は、「会社の取締役であった者が、同会社と競合するほかの会社の代表取締役となるに際して、従前取締役を務めていた会社の従業員らに同競合会社に移籍するよう勧誘することは、個人の転職の自由は尊重されるべきであるという見地から直ちに不法行為を構成するとはいえないが、その方法が背信的で一般的に許容される転職の勧誘を超える場合には、社会的相当性を逸脱する引抜き行為として不法行為を構成する。」「以上のように、被告Aは、原告の代表取締役在任中であるにもかかわらず、被告Bが用意した被告Cへの移籍を前提に、被告Bと意を通じて、被告Cの営業要員の確保と原告従業員を通じてつながりを持っている原告の顧客を被告Cの顧客に切り替えさせることによって確保することを目的として、原告にその動きを察知されるのを防止しつつ、原告の各営業所の全従業員に対して突如として一斉に被告Cへの引抜き行為をしている。これら一連の引抜き行為は、原告に対して従業員らの退職を予見させる機会を与えずに秘密裏に行われ、短期間に手際よく遂行されていることからみて、綿密な計画性もうかがわれるものであり、原告の各営業所の全営業社員を対象としている点で、営業社員による営業行為が業務の主体をなす原告に対する打撃も極めて大きいものといえる。このような被告Aの行為は、原告に対する代表取締役としての忠実義務に違反しているのみならず、その方法において背信的で、一般的に許容される転職の勧誘を超え、原告に対する不法行為となる。」として、被告Aに不法行為が成立すると判断しました。

3 本裁判例から学ぶこと

 従業員の引き抜き行為があったとしても、憲法の職業選択の自由の保障の観点からすると、引き抜き行為が直ちに違法とされることはありません。この点、本判決も、「個人の転職の自由は尊重されるべきであるという見地から直ちに不法行為を構成するとはいえない」として、同旨の原則論を述べています。
 しかし、引き抜き行為が全て適法というわけではなく、本判決でも「その方法が背信的で一般的に許容される転職の勧誘を超える場合には、社会的相当性を逸脱する引抜き行為として不法行為を構成する。」と述べています。
 本件では、被告Aは元の会社の代取在任期間中の行為であったこと、秘密裏に短期間に一斉に行為をおこなったこと、全営業社員を対象としたこと、原告の被害の程度が大きいこと等が考慮されて不法行為が肯定されました。
 近時の裁判例でも、①引き抜きをした者の地位、②引き抜き者の数、③転職が会社に及ぼした影響、④代替要員の確保容易性や売り上げの減少の程度を考慮して、違法性を判断するとされています(東京地裁令和2年3月11日平成30年(ワ)第19730号)。
 例外的なケースとは言え、引き抜き行為が違法となる場合があることには留意が必要でしょう。

※「THE INDEPENDENTS」2020年8月号 - P16より
※掲載時点での情報です