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「「富山発ベンチャーの活性化に向けて」」

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飴 久晴 氏(ロバスト経営研究所 所長/ コーセル株式会社 創業者)

笠間 智樹 氏(有限責任あずさ監査法人 北陸事務所 富山オフィス パートナー)

勝尾 修 氏(株式会社東京証券取引所 上場推進部 課長)

<モデレータ>秦 信行 氏(國學院大学 名誉教授/インデペンデンツクラブ 代表理事)


■富山発ベンチャー活性化の動き

飴:私が塾長を務めている、富山市の主催する「とやま経営実践塾」は月に一度8時間程度のカリキュラムで、これまでに120人の卒業生を輩出してきました。指導の中で感じるのは、とにかく儲けることや売上を伸ばすことばかり考えている経営者が多いということです。私は顧客満足度と従業員満足度の双方を高めることが最終的な利益に繋がると考えています。従業員の労働力と知恵の双方を活用できる経営者が増えてほしいと思います。
秦:富山県では富山県新世紀産業機構(TONIO)が「とやま起業未来塾」を運営しています。TONIOの起業アドバイザー中田さんからご説明いただけますか。
中田:「とやま起業未来塾」は石井知事が2004年の知事選時にマニュフェストとして掲げ、当選後実際に採用された取組みです。6月から11月の6ヶ月間、毎週土曜日午後に開催しています。最終発表会・修了式ではビジネスプランを発表し、最優秀賞、優秀賞、優良賞、特別賞が授与されます。14年間で366名が修了し、創業率も7割と高く評価されています。修了生による学士会の結成、民間の経営者を中心とした応援団のネットワークも構築されています。
秦:とはいえ、各企業が県内レベルの規模感に留まっていることも事実です。IPOを目指す企業を増やすにはどのようにすべきでしょうか。
笠間:自分の身近な企業がIPOすることで、次は自分の番だ、という相乗効果があると感じます。富山でもコーセルが上場した後に続いて上場した企業がありました。ポスト・コーセルの企業をいかに創出できるかが喫緊の課題ではないでしょうか。
勝尾:「未来塾」のような地方自治体が中心となって開催されているベンチャー起業家向けの創業経営塾で、今後、直接金融による資金調達方法も含めた資本政策について、より多くのケーススタディが学べるようになると、意識が変わっていくと思います。

秦:勝尾さんから見て、全国のベンチャー動向について感じる事を教えてください。
勝尾:新しい価値を生み出すのは、大学が起点でありますから、大学が起業家育成に力を入れている地域、中でも小規模な専門性の高い大学では、意思決定も早く、ローカルであっても大学発ベンチャー企業の数も増えています。その中でも、アイデアでの創業から、対マーケットを意識し始める段階まで来た企業になると、資金調達の必要性の議論の中で、IPOに対する認識が高まって来ている気がします。
秦:事業承継の後継者不足の問題も大きな問題の一つです。日本の起業家は自分で何でも決めたい、自分がリタイアした後は子供に譲りたいという創業者が多いのがネックになっていると感じています。しかし最近の若い起業家の中には事業売却をしてすぐに別の会社を立ち上げるシリアルアントレプレナーも増えています。富山からも新しいタイプの起業家が出現することに期待しています。

■富山の学生に向けて

秦:本日は富山短期大学の学生にもご参加いただいています。起業についてメッセージをいただけますか。
飴:私は高校卒業後、東芝に勤めていましたが、「高卒なら定年間際に課長になれたら良い方だ」と上司に言われたことがきっかけで個人創業し、1969年にエルコー(現・コーセル)を設立しました。その後2度の倒産の危機を乗り越えて情報通信機器や医療用機器等のスイッチング電源の主要企業にまで成長させました。1994年にJASDAQに上場した後、2000年には東証1部上場を果たし、2002年に社長を退いて代表権のない会長に就任しました。2012年に役員を退き、現在はロバスト経営研究所長として、若手経営者育成に力を注いでいます。経営を実践して感じるのは、逆境やピンチを乗り越えるときにこそ人は成長するということです。若くて体力のあるうちに失敗を恐れずに挑戦し続けることで、大きな成功への起爆剤になると思います。
勝尾:1980年代後半は、成熟したビール業界ですら、アサヒスーパードライというヒット商品で市場構造に大逆転が起こりました。カメラ業界でも、オートフォーカスのカメラの発明で同様の大逆転が起きました。チャレンジ精神の賜物です。ベンチャービジネスでは、新たな価値観やムーブメントを生み出すチャレンジ精神が起業に繋がる訳です。そのようなチャレンジ意識は、バブル崩壊後のIT社会到来で勢いが止まらず残っていたものの、リーマンショック以降の数年は流れが完全に止まりました。ここ数年は、東京中心のIPO実績とはいえ、地方創生の流れの中で多様な価値観が見直されているところですが、地方にこそブームでなくシステムとしてのIPO文化を根付かせたいと思っています。


※「THE INDEPENDENTS」2019年9月号 - P10-11より
※冊子掲載時点での情報です