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「平成のベンチャー史と令和に期待する支援施策について」

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早稲田大学
名誉教授 商学博士 松田 修一 氏

943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。
1972年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。
1973年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。
1986年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。2012年3月教授を退官。ウエルインベストメント(株)取締役会長


國學院大学
名誉教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)


■不況からの脱却を目指した平成初期~中期

松田:これからの日本の経済を支えるベンチャー企業について、平成30年の歴史を振り返りながら、令和という新時代への期待について考えてみたいと思います。平成の幕開けでもある90年のバブル崩壊当時、私はアメリカ(ボストン大学)に客員教授として留学していましたが、日本の上場会社の95%が赤字でした。未だトヨタも米国に単独の工場建設をしていませんでした。30年後には高齢化社会が深刻化することは明白であるにもかかわらず、日本を救うのはベンチャーしかない、という危機感を覚えた私はその後日本に帰国し、1993年に早稲田大学アントレプレヌール研究会(WERU)を立ち上げました。WERUは日本初の産学官研究会として、ベンチャー関連の著書の出版や、早稲田大学と一体となった起業家創出スキームの構築など具体的な支援を現在まで行っています。

秦:私は1991年(平成3年)から出向先のジャフコで国内外の投資に携わっていました。当時衝撃的だったのは、投資先のIPO株価が取得価格よりも下がってしまったことです。日本の株式市場の立て直しが急務となる中で、90年代の後半には、行政サイドから様々な施策を考える流れが生じてきました。1996年(平成8年)に中小企業庁主体で制定された中小企業創造法(中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法)は、革新的なビジネスを展開する中小企業を創出・育成することを目指して、官の介入によって地方のベンチャー投資を増加させる仕組みを構築すべく作られた法です。私も少しお手伝いをさせていただきましたが、結果的には東証による証券市場改革にも大きく貢献したと思います。

松田:まさに同じ時期に現在のインデペンデンツクラブの源流となる第1回事業計画発表会が開催され、日本ベンチャー学会や日本ベンチャーキャピタルが立ち上がるなど、ベンチャー支援の仕組みが構築され始めた年だといえます。1999年(平成11年)にマザーズ市場が出来るとその動きは加速し、2001年(平成13年)に経済産業省が発表した大学発ベンチャー1000社計画はわずか3年で達成されました。

秦:私は1999年から2001年までスタンフォード大学に在籍していたのですが、アメリカではインターネットの民生化が進み、シリコンバレーを中心に熱狂に満ちた「ITバブル」と呼ばれる時代でした。しかし過剰な企業価値の高騰によってITバブルはすぐに崩壊し、アメリカの経済は急速に落ち込みました。

松田:日本の株式市場はそこまで影響を受けず、引き続き東証マザーズや大証ヘラクレスを中心として次々とベンチャーが生まれていました。しかし2005年(平成17年)に10年の時限立法だった中小企業創造法が終わったことや、ライブドア事件、さらに2008年(平成20年)のリーマンショックによって日本、ひいては世界中でベンチャーが冷え込む時代を迎えました。


■平成後期からの復調と新時代「令和」のベンチャーへの期待

秦:平成中期からの停滞期も2010年代には回復に向かい、今もその良い流れが続いていると感じます。その理由の一つとして、2000年以降、優先株式の活用やストックオプション制度の導入などの投資に関するインフラの整備が進んできたことが挙げられます。今ではVCによる投資のほとんどは優先株式によるものへと変化しました。

松田:ベンチャー企業自体の属性も変化しています。2019年5月23日に発表された日本ベンチャー大賞では、東大発ベンチャーのプリファード・ネットワークスが内閣総理大臣賞を受賞しました。20年前は“町の発明屋”が多かったテック系ベンチャーの世界でも、地方を含めて大学発ベンチャーの取り組みが活性化しつつあり、非常に興味深い時代になってきています。とはいえ、世界のトップ企業が時価総額50兆円以上を争っているにもかかわらず、トヨタですら時価総額は約20兆円です。今後日本のベンチャーは何を目指すべきなのか、改めて考える必要があると思います。

秦:GAFAに代表されるような海外のプラットフォーマー達に今から日本勢が今から対抗するのは相当難しいことです。日本のベンチャーがどこに新しい地盤をつくるべきなのかすぐには明確な答えが見えてきませんが、特にものづくり系、テック系が活躍できる分野をどう見つけていくかがポイントになると思います。

松田:どのような方向に進むとしても、アメリカや中国と戦っていくためにはテクノロジーと知財で真正面から勝負することが不可避です。最近では特許庁が知財の観点からスタートアップの成長をサポートする取り組みを進めています。また、昨年に経済産業省が主体となってスタートしたJ-Startup認定ベンチャー93社が、今年度も新たに選出が始まるなど、日本でも少しずつベンチャーに対する総合的な支援体制が構築され始めています。世界を凌駕するようなベンチャーの創出を目指して、今後も起業家の発掘と効果的な支援を続けていかなくてはなりませんね。
(2019.5.27)

※「THE INDEPENDENTS」2019年7月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です