「「岡山発ベンチャーの活性化に向けて」」
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株式会社東京証券取引所 上場推進部 課長 勝尾 修 氏
EY新日本有限責任監査法人 広島事務所 所長 笹山 直孝 氏
中銀リース株式会社 キャピタル部 部長代理 田中 一弘 氏
<モデレータ>國學院大學 名誉教授 秦 信行 氏
秦:平成から令和へと時代が変わる中で、日本社会も早急に大きく変わる必要があります。そのためには新しい企業を育てることが課題です。本日は、岡山県をベンチャーにとってよりよい環境にしていくには何が必要か考えていきたいと思います。
田中:2017年に中国銀行が主体となって岡山での起業・新事業創出を官民一体となって支援する「岡山イノベーションプロジェクト」を立ち上げました。優秀な実業家を発掘、育成する「岡山イノベーションスクール」と、優れたビジネスモデルをコンテスト形式で評価する「岡山イノベーションコンテスト」の2つを事業の柱とし、本質的な地方創生の実現を目指しています。また、投資実績については、中国銀行グループとしては、1996年からIPO支援のためのファンドを4号まで運営し、投資を実行してきました。さらに2017年に設立した「ちゅうぎんイノベーションファンド」では、「岡山イノベーションプロジェクト」採択企業を中心に4社に1億4,000万円を出資しています。30~40代の経営者が活気づいてきている今、若手起業家が上場することで、岡山のIPO機運の盛り上がりを見せつけてほしいと思っています。秦:2015年以降、ベンチャー熱は急激に高まっています。首都圏で若手の起業が活発化する一方で、岡山含め地方では盛り上がりに欠けるように思います。
笹山:岡山県発の上場企業は21社で、県内総生産や所得の水準は日本の平均以上であるにもかかわらず、2008年の(株)リックコーポレーション以来10年間IPOがありません。上場準備を進めている会社はいくつかあるので、近年中にIPOが出てくることに期待しています。県内総生産が岡山県と同規模の岐阜県では、2016年以降のIPO件数が3社あります。また、県内総生産が岡山県より大きく下回っている徳島県でも2016年以降のIPO件数は3社です。支援プロジェクトの成果が出てくるのはこれからだと思いますが、岡山が1年に1社以上のペースで上場企業が出てくるような活気のある土地になってほしいと感じています。勝尾:日本の証券市場全体での上場企業数は1月末で3,646社ですが、歴史的にも一部上場企業を含めた本則市場が大半を占めており、1999年に設立したベンチャー企業向け市場マザーズの上場企業は275社(4/17現在)となります。この逆ピラミッド構造がベンチャーの起業家に上場に対して敷居が高い印象を与えてしまっている一面があると考えています。マザーズ市場への上場基準は「事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること」なので、「過去の数値基準だけに捉われず“合理的な見込みのあること”」で、より多くの企業に挑戦してほしいです。年間上場企業数の総数を見ると、マザーズ市場への上場企業数は伸びているものの、地方企業の上場はまだまだ十分と言えません。特に地方の優良中堅企業の東証二部やJASDAQ市場への上場トライ数はもっと増加してほしいと思っています。従来は上場によるメリットは資金調達にあると言われてきましたが、近年の上場においては、少子高齢化の社会問題は経営の持続性にも大きな影を落としており、知名度・信用度の向上や人材確保、社内体制の強化など、資金調達以外の部分でのメリットも重要視され始めています。組織面や売上面でのステップアップを目的に上場を目指す企業が増えることに期待しています。
秦:福山などの周辺地域と比較して、なぜ岡山ではIPOが少ないのでしょうか。
田中:岡山は温暖な気候で大きな災害も少なく、交通の要衝で地理的に恵まれています。製造業が盛んなことも大きな特徴です。恵まれた環境だからこそ、地に足をつけて安定したいという風土があったのかもしれません。笹山:福山では地場のオーナー企業の成長意欲が高まっている一方で、自動車関連企業が多い広島では、ベンチャー企業や若手経営者の輩出は一歩遅れていると感じます。むしろ、岡山はアパレル大手の(株)ストライプインターナショナル 石川康晴代表のような起業家も輩出しており、「岡山イノベーションプロジェクト」などの支援のおかげで30代~40代の経営者が増えていると思います。
秦:起業家同士の横の繋がりを広げるコミュニティはあるのでしょうか。
笹山:岡山では起業家の横のつながりがまだ乏しいと思います。福山には地元のIPO企業の経営者が集まる「びんごIPO倶楽部」という組織があり、自主的に後進を育成する仕組みが整っています。岡山でもインフォーマルな部分での起業家の交流は是非強化してほしいポイントです。勝尾:岡山大学は伝統のあるナンバースクール(旧制六高)であり医学部も有名で、医療系ベンチャー企業も多数あると思いますが、医療系の場合、開発期間が長く、商品の上市までにはかなりの時間を要します。他の地域を見ると、同様に医学部の有名な東北大学では、工学部との医工連携や東北大学自身の持つVCの運用を通してベンチャー支援が本格化し始めています。仙台の動きなどを参考にしつつ、岡山でも新しい支援体制(学内学部間連携及び産学官連携)について考える必要があると思います。
秦:本日の話を一つのヒントとして、岡山がベンチャーの創業に向けてより一層盛り上がる地域になることに期待します。ありがとうございました。
※「THE INDEPENDENTS」2019年5月号 - P14-15より
※冊子掲載時点での情報です