アイキャッチ

「店舗看板での商標使用は商品についての使用といえるか」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/


 これまで数回にわたって著作権判例を紹介してきましたが,今回から事業活動に有益な商標判例を紹介していきます。  初回は,「堂島ロール」というロールケーキの販売で有名な大阪の㈱モンシュシュ(現㈱モンシェール)がその自社名称を店舗で使用することまで禁じられたモンシュシュ事件について紹介します。

1.事案

 神戸の洋菓子メーカーであるゴンチャロフ製菓㈱(被控訴人・原告)は,「菓子,パン」を指定商品とする登録商標「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」(以下,「本件商標」といいます。)を有していました。
 一方,大阪においてロールケーキの販売で有名な㈱モンシュシュ(控訴人・被告)は,洋菓子を製造販売するにあたり,当時の社名であった控訴人各標章を包装,店舗(看板,案内板,外壁,入口硝子面,広告)に付して使用していました。
 そこで,被控訴人は控訴人に対して,本件商標権に基づき控訴人各標章の使用禁止,抹消,物の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償等を求めたところ,原審において商標権侵害が認められました。控訴人はこれを不服として大阪高裁に控訴審を提起したという事案です。

2.大阪高裁の判断

 大阪高裁は,「当裁判所も,控訴人各標章は,洋菓子について使用される場合であっても,洋菓子の小売について使用される場合であっても,本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているといえると判断する。…控訴人は,控訴人各標章は,有名な『堂島ロール』を販売する控訴人の店舗名を表すものとして機能しており,商号その他店舗表示・営業表示として使用されているものである旨主張する。しかし,前記引用部分で判示したとおり,一般的に,『洋菓子』という商品に使用される標章と同一又はこれに類似する標章を,『洋菓子の小売』という役務に使用した場合には,商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え,出所の混同を招くおそれがあるといえるのであり,入口ガラス壁面に営業時間や電話番号等が記載されていることなどの控訴人が指摘する事情や,証拠…により認められる実際の店舗看板等への使用態様をもって,上記おそれを否定することはできない。」としたうえで,本件商標と被告各標章も類似していると判断し,商標権侵害を認めました。

3.本裁判例から学ぶこと

 本件において,控訴人は,控訴人各標章の使用が「洋菓子の小売」という役務に対するものであり,「洋菓子」という商品への使用ではないと主張しましたが,大阪高裁は「商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え,出所の混同を招くおそれがある」以上,非類似とはいえないとしました。商品とサービスは商標法上の商品・役務分類という考え方の中では別に扱われているものの,現実にはある商品とその商品に係るサービスは出所の混同を引き起こす危険性が高く,裁判所の判断は妥当といえます。この考え方は菓子業界のみに留まらず,様々な商品とその小売役務について適用される可能性が高いでしょう。このようなトラブルを未然に防ぐためには,製造小売業を営む場合にも,商品商標と小売役務商標の両方について権利を取得しておくことが重要ということになります。




※「THE INDEPENDENTS」2018年1月号 - p26より
※冊子掲載時点での情報です