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「著作権法改正の概要」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/


 平成31年1月1日に「著作権法の一部を改正する法律」が施行されます。 今回のコラムでは,この著作権法の改正について,概要を紹介します。

1.改正の趣旨

 今回の著作権法改正の趣旨は,デジタル・ネットワーク技術の進展により,新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するため,著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し,情報関連産業,教育,障害者,美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにするというものです。

2.改正の概要

改正の概要は,以下の①~④です。

 ①デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(第30条の4,第47条の4,第47条の5関係)
 著作物は,技術の開発等のための試験の用に供する場合,情報解析の用に供する場合,人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,その必要と認められる限度において,利用することができるようになります。また,電子計算機における著作物の利用に付随する利用や情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等についても,必要と認められる限度において,無許諾で利用できるように規定が整備されました。

②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
 ICTの活用により教育の質の向上等を図るため,学校等の授業や予習・復習用に,教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について,現在は,利用の都度,個々の権利者の許諾とライセンス料の支払いが必要ですが,改正後は,ワンストップの保証金支払いのみで権利者の許諾が不要となります。

③障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(第37条関係)
 現在,視覚障害や発達障害等で著作物を視覚的に認識できない者が対象となっている規定を見直し,肢体不自由等を含め,障害によって書籍を読むことが困難な者のために録音図書の作成等を許諾なく行えるようになります。

④アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(第31条,第47条,第67条等関係)
 美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し,タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようになります。また,国及び地方公共団体等が裁定制度を利用する際,補償金の供託が不要となります。そのほか,国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送付を許諾なく行えるようになります。

3.まとめ

今回の著作権法改正は,イノベーションの創出を促進するため,情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう,ある程度抽象的に定めた規定となっています。具体的事案について,改正法の解釈・適用について,疑問・ご質問があればいつでもお問い合わせください。


〔無許諾で利用可能となる行為の例〕

☞人工知能の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為
☞ネットワークを通じた情報通信の処理の高速化を行うためにキャッシュを作成する行為
☞メモリ内蔵型携帯音楽プレイヤーを交換する際に,一時的にメモリ内の音楽ファイルを他の記録媒体に複製する行為
☞特定のキーワードを含む書籍を検索し,その書誌情報や所在に関する情報と併せて,書籍中の当該キーワードを含む文章の一部分を提供する行為(書籍検索サービス)
☞量の論文や書籍等をデジタル化して検索可能とした上で,検証したい論文について,他の論文等からの剽窃の有無や剽窃率といった情報の提供と併せて,剽窃箇所に対応するオリジナルの論文等の本文の一部分を表示する行為(論文剽窃検証サービス)


※「THE INDEPENDENTS」2018年12月号 - p24より