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「クアドリティクス(株)、ネクストイノベーション(株)、(株)Photosynth」

公開


松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。
1972年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。
1973年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。
1986年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。2012年3月教授を退官。ウエルインベストメント㈱取締役会長
特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ代表理事



月例会の様子

クアドリティクス(株)は、7年をめどに株式公開を考えている設立1年未満の「ほんの少しの未来」を予測したサービス提供を目指していますが、大学発ベンチャーを軌道に乗せるために、明確にする課題があります。
ネクストイノベーション(株)は、通院する時間の確保が難しい社会人や、コンプレックスで通院が躊躇される疾患の方を対象にしています。すでに事業を軌道に乗せる十分な資金と人材を確保し、5年後のIPOを目指して、着々と業容を拡大しています。
(株)Photosynthは、既存のドアに貼り付ける後付け型の「スマートロック」とその専用アプリの開発(電池とスマホで動く)で、部屋と人の稼働状況がリアルタイムで把握でき、働き方改革・残業縮小という追い風もあり、急成長しています。
今後、さらに成長加速するために解決する必要がある課題を講評・総括いたします。

No.938 クアドリティクス株式会社(代表取締役 小林 紀方 氏)

①参入障壁の基本となる知財の独立性確保

 現在大学知財には譲渡と専用実施権付与の2種類がある。今後ベンチャー設立後に新たに取得する知財申請スピードが確保されるよう大学との契約関係を明確にし、また大学・企業との共同開発契約につきベンチャーの自由度を確保するにはタフな契約交渉が不可欠です。

②リアルタイム心電図解析技術をいかなる領域に適用するかの判断

 ウェアラブルな医療機器には、薬事対応不要領域と薬事対応必要領域とがありますが、前者の居眠り運転予知向けに開発しようとする既に競合も多く、共同開発に持ち込めるかも疑問が残ります。てんかん予知対応技術で起業した想いのビジネス化をもっと深く検討し、シードマネーを確保するまでの実効性ある事業計画を提示する必要があります。

③マーケット人材を確保し製造・販売チャネルを含むビジネスモデルの構築

 現在設立1年足らずで、すべての関係者が研究開発よりの専門家です。ウェアラブル端末の製造チャネルと販売チャネルの洗い出し、収益モデルを確保するための連携優先順位の決定等市場に明るい人材を少なくとも社外には確保し、「ほんの少しの未来」をスマホで知らせることにより、事故を防止できる社会を描き切りましょう。


No.939 株式会社ネクストイノベーション(代表取締役 石井 健一 氏)

①世界標準の遠隔医療サービスに近づけたい想い

 医師の診断を受けるのは恥ずかしい悩み(避妊、薄毛、メンタル)等に特化して、自由診療で、高いクオリティ・容易なアクセス・低コストでスマホを活用した医師の診断・薬の配送・アフターケアのサービスを行っています。ニッチ市場で圧倒的なシェアを確保することを第一段階で目指しているが、既存の医療機関との軋轢を徹底して回避することが重要です。

②医療のクオリティと個人カルテの共有によるデータ管理の徹底を

 医師の業務の空き時間を活用したネット診断であり、多くの先生方が参加し、患者に対する処方箋などの内容がチェックできる個人カルテを共有することによって、クオリティの高い治療を目指していますが、意図せざる流出リスクが発生すると、医師と患者の信頼が一気に崩れます。データ管理の徹底を期待します。

③後発のキャッチアップを蹴落とす事業拡大スピードを

 現状のビジネスは遠隔医療ではなく、特化型医療Web支援モデルです。医師の高齢化や地域偏在による医療水準の格差是正で、Web支援モデルが標準化することを前提に、そのパイロットテスト事業として位置付けられます。特化型医療から生活習慣病などの巨大市場に挑戦するには戦いぬく資金と武器(知財・ブランド・医師の信頼)を得るための事業拡大スピードを期待します。


No.940 株式会社Photosynth(フォトシンス)(代表取締役社長兼CEO 河瀬 航大 氏)

①ロック無料貼り付け・月間1万円強のレンタル料で中小企業顧客急増

 オフィスの共有や、不動産の部屋の内覧など、鍵不要で、利用者の履歴まで見える化ができる『Akerun Pro』は、100人以下の小規模事業者の管理システムに主として採用されています。Web受注が中心ですが、中小企業を束ねている会社とも連携し、一気に普及拡大する必要があります。

②顧客対応の開発の先行投資型モデルに必要な資金調達

 設立当初は家庭向けのBtoCビジネスであったが採算面から行き詰まり、法人向けのBtoBで成長し始めました。ただし、他社の追従を許さない製品・システム開発は、顧客対応の先行投資型モデルです。鍵を起点に、部屋の他の機器類とのインターフェイスまで開発範囲を拡大すると、従来とは比べ物にならない資金が必要になります。

③データ駆動社会に対応した連携戦略をしたたかに

 タワマンや巨大オフィスビルが次々建設されています。安心・安価の後付け鍵システムが当社の特性ですが、大型ビルについては設計段階から参画する必要があります。圧倒的に安価でも、既に導入しているシステムを置き換えることはなかなか困難だからです。トップ営業による施工主との連携によるシンボリックな大型案件を獲得し、データ駆動社会で存在感ある会社に成長することを期待します。


2018年12月3日インデペンデンツクラブ月例会 東京21cクラブにて