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「スマート水田システムでアジア進出を目指す」

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<聞き手>
株式会社AGSコンサルティング
専務取締役 小原 靖明 氏(写真左)
1985年明治大学大学院法学研究科修了。1989年当社入社。2000年IPO支援会社ベックワンソリューション設立、代表取締役就任。2007年合併に伴い、当社取締役就任。2012年3月常務取締役。2014年3月専務取締役(現任)

<話し手>
株式会社笑農和
代表取締役下村 豪徳 氏(写真右)
1977年2月12日富山県の農家生まれ。富山県立雄山高校出身。1997年職業能力開発短期大学情報技術科卒業後、システム会社に入社。システムエンジニア、営業、企画、マネージメントを経験し、2013年に当社設立、代表取締役就任。日本農業情報システム協会理事。

【株式会社笑農和(えのわ)】
設 立 :2013年2月14日
資本金 :71,000千円
本 社 :富山県滑川市常盤町28-4
事業内容:スマート水田サービス「Paditch」の開発運営 
URL :https://enowa.jp/

<特別対談>これからのIPOスタイル

スマート水田システムでアジア進出を目指す




■水稲向け水管理システム『paditch(パディッチ)』

小原:近年日本の農業は高齢化や世代交代、農地の集約と大規模化などで大きな転機にあり、今まで経験や勘で行われていた技術の承継や農地の効率的な運用、度重なる異常気象への対策としてIT化が課題となっています。しかし水管理の作業は日照時間や降水量によって細かな調整が必要なため、機械化が進んできませんでした。
下村:私たちがターゲットにしている耕作面積30ha以上、年商4000万円以上の農業法人でも毎日手作業で給水栓を開閉するために労働者を雇っている現状があります。私は農家を継がずに製造業の業務効率化エンジニアとして働いていましたが、実家の売上が伸び悩んだ際に水管理の負担の大きさに危機感を感じたことがきっかけで『paditch』の開発を始めました。
小原:『paditch』は水田の水位調整を目的としたIoT水門機器です。水門には通信機能を持つセンサーが搭載され、水温や水位のデータをリアルタイムにアプリで見ながら門の開閉を遠隔操作することができます。
下村:機器1台12万円と月額利用料1,100円という販売モデルで、今年度は自社での営業や農家からの問い合わせを中心に100台のシステムを導入しました。

■自治体と連携し「スマート水田」を展開

下村:来期からは100台~200台をまとめて一つの地域に導入するドミナント戦略を進めます。最近はスマート農業の実証実験に関心を持つ自治体が増えているので、自治体向けの有料視察ツアーを計画しています。
小原:成功モデルができれば自ずと関心を持つ人も増えると思いますが、農家自身にも『paditch』の有用性を理解してもらう必要があります。
下村:実際に全く畑に行かないのは不安だという声も上がっているので、耕作放棄地を活用してショーケースを立ち上げ、安心して利用してもらえる施策を進めていきます。

下村:最終的には各地域に合わせた適切な水温管理をシステムに組み込み、水管理を完全に自動化します。国内23万台の導入を目指しつつ、市場が確立されるタイミングでオープン化し、データビジネスやコンサルティングの方面へ転換していきます。
小原:データを大量に集めることで新しい『paditch』の活用方法も見えてきます。
下村:蓄積したデータを活用することによって水管理だけでなくドローンによる農薬散布や田植え・除草用ロボット等と連携し、「スマート水田」の導入を促進します。水田の効率化に留まらず、データに基づいた複合農業経営の提案によって農家の経営改善に貢献していきたいと考えています。
小原:日本の高い技術で農地を管理できるとなれば、海外での需要も見込めるのではないでしょうか。国内導入台数の実績が出れば、進出の確度も上がると思います。
下村:海外では日本のような用水路が整備されていないので、灌漑用水のシステムごとパッケージ展開を行います。ベトナムを皮切りに東南アジアや中国へ進出していきます。

■アグリテック企業として株式上場を目指す

小原:現在の従業員数は8人ですが、本格的な国内横展開や海外展開を想定すると、人員の確保が急務になるのではないでしょうか。
下村:5年後の上場を目指して大型の資金調達を実施し、システム拡充のためのエンジニア人材を集めたいと考えています。一方で、販売拡大のための営業人材や代理店戦略も課題に感じています。
小原:営業体制の強化によって先にシェアを拡大し、多くのデータ量を確保していくことで企業価値も高まると思います。アグリテックのみで成功している企業は未だ多くありませんが、貴社が先駆者として日本の農業、そして世界の農業を変えていくことに期待しています。本日はありがとうございました。



※「THE INDEPENDENTS」2018年12月号 - p20-21より