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「リアルタイム心拍変動解析で『ほんの少し未来』を正確に予測する」

公開

<話し手>
クアドリティクス(株) 代表取締役 小林 紀方 さん(右)
1974年生まれ。六甲高校出身。2000年神戸大学医学部卒業。秋田県立脳血管研究センター、東京慈恵会医科大学などで脳卒中の外科治療・脳血管内治療に従事。2011年より2年間国立循環器病センターに勤務。2016年神戸大学大学院経営学研究科にてMBA取得、2017年12月病院を退職し、2018年2月当社設立。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士・弁理士 杉尾 雄一さん(左)
1984年生まれ。2006年弁理士試験合格、2014年司法試験合格、2015年弁護士登録。立命館大学大学院理工学研究科修了、株式会社島津製作所知的財産部を経て、神戸大学法科大学院修了。2016年から弁護士法人内田・鮫島法律事務所に所属。特許訴訟をはじめとする知的財産訴訟、知財戦略を中心に、企業法務全般に携わる。

内田・鮫島法律事務所知財インタビュー

リアルタイム心拍変動解析で『ほんの少し未来』を正確に予測する



■心拍間隔のゆらぎからてんかん発作を予知

小林:当社は京都大学・熊本大学を中心に全国の医療機関・研究機関とともに開発されたてんかんの発作予知技術の事業化を目指す企業です。てんかん発作は発現前に自律神経に影響を与え、心拍変動(HRV:心拍の間隔のゆらぎ)に変化を引き起こします。私たちは高精度かつ長時間の心拍計測が可能なデバイスと心拍変動の解析アルゴリズムによっててんかんの発作を15分~1分前までに予知し、転倒・転落や交通事故などを未然に防ぐことを目指しています。

杉尾:最近ではアップルウォッチなど心電を測定できる機器は増えていますが、貴社のウェアラブル型のデバイスは恒常的に測定できる点が特徴です。てんかん以外にも活用は見込めるのでしょうか。

小林:当社独自のアルゴリズムに基づいて心拍変動から自律神経の状態を解析することで、眠気やストレスなど様々な症状の検知が可能です。てんかん発作予知と並行して睡眠時無呼吸症候群(SAS)のスクリーニング、居眠り運転検知をなどのヘルスケアサービスの開発を進めています。

杉尾:大企業とのアライアンスの可能性も高いため、技術面の信頼獲得や契約交渉を優位に進めるためにも現段階から戦略的に特許を取得する必要がありそうですね。


■大学との共同研究における知財の切り分け

小林:知財に関しては大学から譲渡してもらったものもありますが、大学がTLOを通して管理しているものは独占実施権の契約交渉を行っています。現在大学が保有する特許の改良発明を当社単独で出願することは可能なのでしょうか。

杉尾:特許が公開された後は、改良発明を単独で出願することができます。大学側の基本特許を回避した改良発明を創作できれば、大学からライセンスを取得せずに貴社が事業を展開することも可能です。ただしベンチャーの場合、大学からライセンスを取得し、大学の技術を活用していることも、事業を展開していく上での戦略の一つになり得ると思いますので、無理に大学の特許を回避する必要はないと思います。

小林:当社には大学教員も在籍していますが、今後新たな知財の原資を開発した際の線引きはどのように行えばよいのでしょうか。

杉尾:共同研究契約における知財の帰属の問題です。発明者が双方の組織に所属しているような場合、確かに発明者を基準とした切り分けは難しいため、このような場合は分野や用途で切り分けることが考えられます。例えばてんかん発作予知や居眠り運転検知に関しての発明は貴社に、それ以外の汎用的な発明については大学に帰属する、という分け方が可能だと思います。


■「広い特許」取得を目指す

杉尾:貴社のようにHRV領域から疾患の検知を行っている会社は少ないと思うので、先行技術が少ないうちに特許を出願すれば、「広い特許」を取得できる可能性が高いため、特許の活用の幅が広がります。

小林:現段階で研究の進んでいる範囲で特許を取得した後に新しい効果を発見した場合、後から特許を取得することはできますか。

杉尾:出願済みの特許出願に記載されていない新しい効果を発見したような場合は、後から追加の特許出願を行えば特許を取得することは可能です。できれば、出願済みの特許出願が公開される前に追加の特許出願をしたいところです。より好ましくは、最初の特許出願をする段階からしっかりブレーンストーミングをして、可能性がある用途や効果を特許出願に記載しておくことです。このようにすれば、後から特許出願内容の修正や特許出願の分割といった形でより有利に権利化を進めていくことが可能です。

小林:将来的な開発の進捗も考えたうえで特許取得を進めていく必要があるんですね。

■今後の事業展開

小林:てんかんの発作予知は病院などの医療機関で主治医からアプリを提供するモデルを検討しています。一方、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のスクリーニングと居眠り運転検知は、ドライバーを含めた安全管理が重要な事業会社に向けたサービス開発を検討しています。まずは、薬事承認が不要な居眠り運転検知サービスの2020年の上市へ向け開発を進めます。

杉尾:ウェアラブルデバイスとスマートフォンアプリによるシステムに限らず、車載機メーカーと協業が進めば車体そのものに機器を取り付けることもできますね。

小林:気であることを周囲に知られたくない患者も多く、異常を知らせた時の安全のため、サービス導入に向けて消費者にどのようなUI/UXを開発するかが課題です。

杉尾:UI/UXの部分では侵害検出性の高い特許を取得できる場合が多いので、今後競合が増えてくる中で特許取得を念頭に置いて開発を進めて頂くと良いと思います。本日はありがとうございました。



(2018.11.2)


―「THE INDEPENDENTS」2018年12月号 P22-23より

クアドリティクス株式会社

住所
京都府京都市左京区吉田本町京都大学 国際科学イノベーション棟1F
代表者
設立
2018年2月9日
資本金
3,000千円
従業員数
事業内容
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