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「建築物の著作物性について」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/

図参照


 今回は,注文住宅である建築物の著作物性が争われたグルニエ・ダイン事件を紹介します。

1.事案(*1)

 大手住宅メーカーであるX(原告・控訴人)は,高級注文住宅(X建物)を開発し,建築・販売を行っていました。このX建物は,和風建築の2階建て個人住宅で,片流れ大屋根と切妻屋根が組み合わせられ,2階にインナーバルコニー,1階に軒下テラスが配されるなどの特徴があり,「平成10年度グッドデザイン賞」を受賞しています。
 一方,同じく住宅メーカーであるY(被告・被控訴人)は,上記X建物に似た注文住宅(Y建物)を住宅展示場に展示し販売していました。
 そこで,Xは、Y建物はX建物を複製または翻案したものであるとして,Y建物の建築等の差止めと損害賠償を求めて提訴したところ,原審は,X建物は「著作権法上の『建築の著作物』に該当するということはできない」として請求を棄却し,Xが控訴したという事案です。

2.大阪高裁の判断

 大阪高裁は,「一般住宅が著作権法10条1項5号の『建築の著作物』であるということができるのは,客観的,外形的に見て,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となり,建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。…本件のように,高級注文住宅とはいえ,建築会社がシリーズとして企画し,モデルハウスによって顧客を吸引し,一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合は,一般の注文建築よりも,工業的に大量生産される実用品との類似性が一層高くなり,当該モデルハウスの建築物の建築において通常なされる程度の美的創作が施されたとしても,『建築の著作物』に該当することにはならないものといわざるを得ない。」とし,結論として「X建物は,…造形芸術としての美術性を具備しているとはいえないから,著作権法上の『建築の著作物』に該当するということはできない。」としました。

3.本裁判例から学ぶこと

 本判決は,建築物が著作物と認められるには,「独立して美的鑑賞の対象となり,建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合」という特別の要件が必要であると判示しました。その実質的な理由については,建築物の美的形象を模倣建築による盗用から保護するところにあり,一般住宅のうち通常ありふれたものまでも著作物として保護すると,後続する注文建築,特に近時のように,規格化され,工場内で製造された素材等を現場で組み立てて,量産される建売分譲住宅等の建築が複製権侵害となるおそれがあるからです。
 しかしながら,本件のような判決が出たからといって、シリーズ化されたような注文住宅が全て著作物性を有さず,似たようなデザインの住宅を建築販売することが著作権侵害にならないわけではありません。著作物性が認められるために,どの程度の芸術性を必要とすべきかについて、判断が難しいだけでなく,論者により見解も様々存在し,広く著作物性を認めるべきであるという説も存在しているというのが現状です。したがって,他者の建築物を参考にして建築物を創作されるような場合には,素人判断せず,専門家に相談するなどして,著作権侵害にならないよう十分に留意する必要があるでしょう。

(注釈)
*1 本事件において,Xは不正競争防止法上の主張もしていますが,紙面の都合上,著作権法に関連する部分についてのみ紹介しています。


※「THE INDEPENDENTS」2018年11月号 - p22より