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「テスラの株式非公開化」

公開


國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)




 去る8月7日、米国電気自動車メーカー・テスラ社の最高経営責任者(CEO)イーロン・マスクはツイッター上で株式の非公開化の計画を明らかにした。正確な情報が得られてはいないが、興味深い論点が指摘できそうなので今の段階で敢えて取り上げることにした。

 テスラ社は2003年7月の創業、7年後の2010年6月にナスダックに上場した。米国での自動車会社の上場は1956年のフォード社以来、実に半世紀ぶりのことだという。

 テスラは赤字会社であったが公開価格は17ドル、時価総額は16億ドル(1ドル=110円で1800億円弱)、上場後も赤字が続いている(四半期決算の黒字は2回のみ)。株価は現在335ドル(8月16日)、時価総額は564億ドル(6兆2000億円)になっている。

 CEOのイーロン・マスクは創業メンバーではない。彼は宇宙開発のためのロケット製造会社であるスペースX社をはじめとして幾つかの事業を立ち上げているが、テスラには最初に投資家として参加し、2008年にCEOに就いている。

 テスラの株式非公開化の目的については、謂われているように、一つはショートセラーと呼ばれる空売りを仕掛けて株価の乱高下を演出してマスクを悩ませてきた投資家へのしっぺ返し、マスクの私憤もあるのであろうが、やはり最大の目的は非公開化することで経営の自由度を大きくすることにあるといえよう。

 確かに株式を公開し上場すると様々な規制に従わねばならなくなる。例えば四半期決算開示などもそれで(日本では2003年に義務化)、上場すると四半期決算を公表する必要が出てくる。四半期開示については米国で見直しの議論が出来てきているようだが、それだけではなく、上場会社への規制、それらは投資家保護に繋がるものではあるが、徐々に厳しくなっているように思う。ただ反面、上場することで多くの投資家の目に経営が晒される結果、経営者、経営陣の独断的な意思決定が是正されるという利点があることは確かで、投資家保護か経営の自由度か、そのバランスの取り方は難しい問題ではある。

 テスラの話に戻すと、マスクは今回の株式非公開化の検討という経営の重要問題を上述したようにSNSのツイッターで公表した。情報開示をSNSで行うことに対して米国証券取引委員会(SEC)は一応認めているようではあるが、株式非公開化といった極めて重要な事項の開示については問題視する向きもあるようだ。

 テスラの非公開化を実現させるためには多額の資金が必要となる。マスクはその資金はサウジのファンドが担ってくれるとしており、さらに既存株主の3分の2は保有を継続してくれるとの見通しを示している。加えて、非公開化しても6か月おきに株式を売買できる機会を設けるという。果たしてマスクの言うようにことは進むのか。

 一方でテスラについては、資金ショートの噂がついて回っていることも確かである。
 筆者は、個人的にはイーロン・マスクのような破天荒な起業家の活躍に期待したいところなのだが、それは余りに無責任なのだろうか。



※「THE INDEPENDENTS」2018年9月号 掲載