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「(株)ひむかAMファーマ、(株)テクムズ」

公開


早稲田大学
商学博士 松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。
1972年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。
1973年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。
1986年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。2012年3月教授を退官。ウエルインベストメント㈱取締役会長
特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ代表理事





宮崎大学地域資源創成学部の土屋有氏より、宮崎における「起業と成長」とを当たり前に考え行動する地域創生人材育成の試みを「宮崎発スタートアップの可能性」というテーマで話していただきました。地域資源を活用した自主・自律の若い人材のビジネスコンテストでの臨場感溢れる映像は、地域を牽引する時代が到来しつつあることを予感させます。
 さて、事業計画発表会では、宮崎大学の研究成果を事業化した会社と、名古屋本社の画像認識にAIを活用した会社の発表でしたが、両社とも技術を海外で事業展開して成長したいという強い想いのプレゼンでした。さらなる成長を目指すにあたり、2社のプレゼンと参加者からの質疑応答を踏まえて講評いたします。

No.896 ひむかAMファーマ株式会社(代表取締役 新城 裕司 氏)

新城氏は、大学発ベンチャーが大学知財の専用実施権を確保するにあたり、大学がエクイティを受け取る学内ルールを作り上げ、その適用第1号として、北村和雄教授の研究成果(AM:アドレノメデュリン)の事業化を目ざして、当社を設立しました。大学研究室と連携しながら、ペプチド医薬品の開発を目指していますが、次の課題を解決する必要があります。

①創薬開発会社の長期戦略

 当面難治性炎症性腸疾患(通称潰瘍性大腸炎)向けのペプチド医薬品(粘膜治癒)の開発を目指しています。天然型AMは宮崎大学(AMED補助金)を中心に臨床POCに基づき開発し提携先へ導出する。次世代型AM(薬効持続)は、FDA基準に基づく国際提携で開発することを目指しています。提携先への導出やIPOまでの正確な期間を提示していませんが、すでにシリーズAの資金調達を済ませ、次世代型AMの開発にスタートしています。AMの適応領域は広そうですが、パイプラインを絞り込み、着実に開発ステージを刻んでください。

②国際開発戦略と知財戦略

 次世代型AM(薬効持続)については、FDA基準に基づく国際提携の開発を目指しており、CRO(医薬品開発支援)、CMO(医薬品製造支援)を活用して試験や製造を行うなど国際開発連携を重視しています。この場合、連携契約上、自社の独立性の確保、発生する知財の共同出願での優位性、さらに大学知財との関係性など自社知財の独立性と優位性を注意ください。

③上場のための研究開発体制の強化

 現在研究開発社員はほとんどいません。天然型AMの開発成果の提携製薬会社への導出・共同研究収入があっても、創薬企業としてIPOを目指すには、事業拡大・成長の源泉としての研究開発体制の実態を問われます。特に次世代型ではCROやCMOを連携先として活用するコーディネート能力に加え、自社研究開発体制を向上させる人材の厚みを期待します。


No.897 株式会社テクムズ(代表取締役 鈴木 孝昌 氏)

 鈴木氏は、アルゴリズムを活用した特徴点を掴む画像認識AIの技術で、モノづくり現場や小売店舗への提案で顧客をつかみ、2021年IPOを目指していますが、次の課題を解決する必要があります。

①いかなるプラットフォーム事業を目指すのか

 デモ店としての無人コンビニ運営、日本の自動車拠点愛知の特性を生かした品質管理、これらを可能にする人間行動データの分析結果により「未来の一歩先を見せる」ことによって収益モデルを確立しつつあります。これらは、顔認証・手の動き・人の行動等の画像認識技術の適用領域です。AIベンチャーのBtoBビジネスの主戦場でもあり、圧倒的なコア技術を持つプラットフォーム事業としての明確な存在感の確立を期待します。

②中堅企業をターゲットに置いた事業拡大のスピード感

 品質管理の精度の高い画像認識情報を必要とするオーナー系中堅企業をターゲットに顧客拡大を目指しています。熟練工の高齢化や人材確保の困難なモノづくり系中堅企業は待ったなしの生産性の向上に迫られています。戦後のモノづくり系企業はすべてファミリービジネスで、事業承継を含め変革スピードを迫られています。当社の技術導入を理解する中堅企業を絞り込み、営業力を集中することを期待します。

③参入障壁の確立と日本の中堅企業の海外進出支援

 画像処理技術及びその活用スキルについて、特許や著作権という知財で競合他社に対抗できる参入障壁を確立することが重要です。海外進出しなければ成長戦略が描けない日本の中堅企業の成功ロールモデル支援を期待します。国内の実験工場や店舗での成功モデルを海外展開するにあたり、中国ICT事業に対抗できる参入障壁の確立が不可欠です。




2018年8月6日インデペンデンツクラブ月例会 東京21cクラブにて