「太陽電池用シリコンウェハの新しい品質測定法『HS-CMR法』」
公開
<話し手>
(株)パンソリューションテクノロジーズ 代表取締役 松島 悟 さん
1977年生まれ。明照学園樹徳高等学校出身。1999年青森大学電子情報工学部卒業。2000年(株)システムテック、2010年(株)シリコンプラス入社、2011年東北大学金属材料研究所(出向)。2017年4月東北大学金属材料研究所入職。2017年9月(株)パンソリューションテクノロジーズ設立、代表取締役社長就任。
<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋さん(左)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。
鮫島正洋の知財インタビュー
太陽電池用シリコンウェハの新しい品質測定法『HS-CMR法』
■東北大学金属材料研究所発ベンチャーとして
鮫島:初めに起業のきっかけを教えてください。
松島:東北大学金属材料研究所藤原航三研究室の同僚である藩伍根(ハンゴコン)博士が開発した『HS-CMR法』を事業化するため、東北大学のビジネスインキュベーションプログラム(BIP)を経て2017年9月に当社を設立しました。鮫島:BIPは東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP)が筆頭株主となり、大学発ベンチャー企業の創出により研究開発成果の実用化を推進するプロジェクトです。
■太陽電池業界の技術革新を目指す
鮫島:太陽電池業界ではパネル品質のばらつきや高い不良品の発生率が問題視されていました。
松島:従来の品質測定法『μ-PCD法』はシリコンウェハの一部にのみレーザー光を照射したデータの平均値で評価するもので、太陽電池用ウェハの評価方法としては不十分でした。そこで、この問題を解決するために『HS-CMR法』を開発しました。鮫島:貴社の『HS-CMR法』ではウェハの内部の品質まで測定できるので、ウェハ全体の評価が可能になり、太陽電池のエネルギー変換効率を高い精度で得ることができます。
松島:ウェハ 1枚当たりの測定時間も30分から10秒へと大幅に短縮でき、太陽電池の開発効率を飛躍的に向上させることができました。併せて新しい検査基準を設けることで不良品のウェハを再利用可能な状態で識別でき、再利用可能な状態で返品することができます。■標準化に向けた知財戦略
松島:将来的には『HS-CMR法』を標準化し国際基準にしたいと考えています。しかし『HS-CMR法』は特殊な装置や製造方法を用いないアルゴリズムだけの技術なので、容易にコピーされやすい点を懸念しています。鮫島:標準化やISO取得を目指すのならば、侵害検出性がなくても特許を取得しておくべきでしょう。特許取得によって技術のオリジネーターであることを明確にすることができ、企業としてのブランディングに繋がります。
松島:現在はSi結晶の結晶品質評価方法及び結晶品質評価装置について1件のみ特許を取得していますが、今後新たに5件ほどの取得を検討していきます。■今後の事業展開
鮫島:太陽光発電は他の発電方式と比べて設備費が高いという課題がありましたが、貴社の技術の導入によってコストの削減が見込めそうですね。
松島:世界的には太陽電池の需要は急速に高まっており、『HS-CMR法』を普及させることでCO2低排出発電を促進させることができます。今後は台湾・中国を中心に、シリコンウェハの検査装置の販売と、データ解析や改善提案などのアドバイザリー事業を進める予定です。鮫島:『HS-CMR法』は太陽電池以外の半導体結晶にも応用できる可能性があるので、新規市場開拓にも期待できます。
松島:装置販売とアドバイザリー事業を通して技術を普及させつつ、将来的には藤原研究室で研究している結晶の技術を活用して、国産の結晶メーカーを目指していきます。鮫島:装置の販売やアドバイザリー事業を通して様々な知見を集めたうえで結晶ビジネスを展開するというのは良いビジネスモデルだと思います。そのためにも『HS-CMR法』の標準化を確実に成功させてください。本日はありがとうございました。
(2018.4.13)
―「THE INDEPENDENTS」2018年6月号 P24-25より