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「日本のVC投資の変容」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

ベンチャーコミュニティを巡って


 日本のVC投資の問題点として追加投資が余り行われないこと、あるいはベンチャー1社当たりの投資金額が小さいこと、加えてその結果でもあるのだが、VC投資の資金回収方法の1つであるIPO時の企業価値(時価総額)が100億円未満の小粒なベンチャーが多く、IPO後の成長性に問題が生ずる会社がかなりあること(この点は必ずしもVCの問題ではないとも言えるが)、といった点を筆者はかなり前から指摘してきた。

 ちなみにVEC『ベンチャー白書2017』で日本のVCについて投資先ベンチャー1社当たりの投資金額を見ると、2017年度の新規(初回)投資においては127百万円(前年度も127百万円)、追加投資では119百万円(前年度86百万円)となっており、新規(初回)投資より追加投資の方が小さくなっている。常識的には投資対象ベンチャーの企業価値が大きくなっていると思われる追加投資時の1社当たり投資金額は新規(初回)投資時の金額より大きくて不思議はないのだが、日本では逆転している。

 一方米国では、2016年で見て1社当たり初回投資金額が282万ドル(1ドル=110円換算で310百万円)、追加投資金額が1,134万ドル(同じく1ドル=110円換算で1,274百万円)となっており(NVCA”YEARBOOK2017”参照)、日本より1社当たりの投資金額はかなり大きく、常識的に追加投資が初回投資を上回っている。

 ところが日本のVC投資においても足元のところでかなり大きな変化が起き始めているようなのだ。2月15日の日経産業新聞の1面の記事をお読みになった方も多いと思われる。そこには「懐足りてIPO急がず」という見出しで未上場段階において数十億円から100億円近くの資金調達に成功したフリーなどの会社が紹介されている。同時に、記事によると追加投資の回数も増加し、金額も膨らんでいるようだ。

 先にVECのVC投資について1社当たりのデータを紹介したが、それはVCに対するアンケート調査の結果であり、資金調達したベンチャー側から見ると複数のVCから調達している可能性があり、ベンチャーの調達額としてはもっと大きいと考えていいであろう。現に未上場会社の資金調達状況を調査しているJVR(Japan Venture Research)の2016年のデータでは、未上場会社1社当たりのエクイティ調達額は3億円近くになっている。

 こうした未上場会社への大型の資金提供のすべてをVCが担っているわけでは勿論ない。他にはバイアウトファンドや既存の事業会社も現状かなりの資金提供を実行している。

 とはいえ、日本のVCも厳選したベンチャーに集中して相当大きな金額を提供する方向になってきていることは事実といってよい。その結果、IPO後の制約なく、よりフリーな形で経営が行わることで、未上場段階での成長が今まで以上に加速されることになろう。そうなるとIPO時の企業価値は拡大するであろうが、IPOの時期は後ろにずれることになり、一時的には日本の年間のIPO社数はかなり減少することも考えられる。では、それがどんな意味を持つのか。IPOの意義にも関係する問題でもあり次回以降で再度考えてみたい。


※「THE INDEPENDENTS」2018年3月号 掲載