アイキャッチ

「「ミレニアル世代」への期待」

公開


國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

ベンチャーコミュニティを巡って


 東大のある本郷周辺にコワーキングスペースが増えているという。 コワーキングスペースとは、起業を目指すような個人ないし仲間数人が、机や椅子、加えてネットワーク設備などのデスクワークをするための環境を共有しながら仕事を行う場所のことをいう。運営する業者から月極や時間制で借りる形式のものが多い。

 こうしたコワーキングスペースが東大のある本郷周辺に数多く生まれているのは何を意味するのか。それはすなわち、東大生の中で起業を目指す若者が増えていることを意味する。

 最近ベンチャーコミュニティに関係する人たちの中でよく聞く話がある。それは、以前の東大生の進路は、まずは国家公務員である官僚か大企業だった。しかし、最近それは明確に変わってきているというのだ。

 東大生のトップクラスが目指す進路は現在ではまずは起業家、ついで次のクラスが目指すのが外資系の会社か留学、3番目のクラスが官僚か大企業だというのだ。勿論確たる証拠があるわけではない。とはいえこの話はよく聞く。

 話は変わるが、先日私の勤務する大学で卒業生、それも30歳代前半以下の若い卒業生数人に来ていただいて現役生に就活についての話をしてもらった。話の内容はともかく筆者が驚いたのは、卒業後数年の卒業生を除くと全員が一度は転職していたことだ。

 筆者のゼミの卒業生についても同様の事がいえる。彼らの中で卒業後10年以上経った連中を見ると、おそらく70~80%が一度ないしは2度転職している。しかも、筆者が学生の頃は転職すると経済処遇が悪化するのが一般的であったが、現在は中途人材採用企業が増えていることもあって経済処遇が悪化することも少なくなっているようだ。経済処遇の問題はともかく、少なくとも彼ら本人にとってはよりフィットした、やりがいのある職場に移っているように思われる。筆者のゼミ生の転職組をみるといずれもがそうである。

 「ミレニアル世代」という言葉がある。2000年に大人、すなわち20歳以上になった年代の人達を指す。つまり、1980年から2000年の間に生まれた年代をいう。現在最年長で37歳、それ以下の年齢の若者がミレニアル世代になる。

 彼らの多くは日本経済の良き時代を知らない。高度経済成長は全く知らないし、その後の「日本的経営」が世界で称賛された時代も生まれていた人はいるとしても子供であったがために実感はないであろう。そうした意味で成功体験は少ない代わりに、日本経済・企業が長期の低迷に苦しむ中で、日本経済・企業を取り巻く環境として何が変わったのか、その結果として日本の何が問題で何を変えなければならないのか、等々について様々に考えてきた世代ではなかろうか。だからこそ上述の東大生のように新しいものに挑戦してみようとする人が増え、終身雇用に逆らって転職する人が増えているのではなかろうか。

 戦後70数年、その間に形成されたパラダイムは抜本的に転換すべき時期に来ている。その担い手として、まだ少し頼りないとはいえ「ミレニアル世代」に期待したい。


※「THE INDEPENDENTS」2017年12月号 掲載