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「日米を跨いだシリアルアントレプレナー」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

2017年11月21日 福山チャレンジ企業セミナー登壇

ベンチャーコミュニティを巡って


 最近筆者にとって大変うれしい出来事があった。それは小里文宏氏率いる監視カメラ等向けの半導体開発会社テックポイント・インクのマザーズ市場上場である。上場日は9月29日(金)なのでこのコラム執筆中の段階ではまだ上場前なのだが、上場が決まった。小里氏にとっては、2006年にTechwellというディスプレイ用半導体開発会社の米国ナスダック市場へのIPOに続く2社目の上場ということになる。
 筆者と小里氏及びTechwell社が関係したのは約15年前2000年頃だったと記憶する。筆者は当時スタンフォード大学でVisiting Scholarとしてシリコンバレーに在住していた。定かな記憶ではないが、確かあるシリコンバレーのベンチャーキャピタリストに日本のVCから資金調達を検討している起業家・ベンチャーがいるので紹介すると言われてお会いしたのが最初の出会いだったように思う。そこで筆者は日本のVC、今は投資活動をやめているように思うが、三菱商事系のVCと安田生命系のVCを小里氏に紹介し、Techwellは彼らから数億円の資金調達を行ったと記憶している。その後Techwellは順調に業績を伸ばし2006年にナスダックに上場した。
 小里氏は、上場後も数年Techwellの経営を見ておられたが、2010年春にTechwellをある半導体大手に売却された。そして小里氏自身は、次のステップとして新しいベンチャーキャピタルの創設、それも日本でのファンド募集を目指された。
 小里氏は当時、日本のエレクトロニクス会社は数多くの半導体関連の特許技術は持っているのだが、それを事業化に結び付けるアイデアがなく謂わば死蔵されている状況にある、それを見つけて起業家に事業化させ資金も付けることが出来れば新しい市場を創造できる、そうした形のベンチャーキャピタルを作りたいのだと仰っていた。そのために日本でのファンド募集と日本での投資にこだわられた。
 それから私も協力し日本のLP候補先を口説いて回った。結果は残念ながら上手く行かなかった。理由は、協力者の私の力不足とリーマンショック後であったという時期の問題、それと小里氏にキャピタリスト経験がなかったことなどであった。小里氏自身にキャピタリスト経験がなかったことについてはその通りではあるが、米国では優秀な起業家でキャピタリストとしても大成した人材は沢山いる、従って、私自身はそのことがLPから問題視されるようには思っていなかったのだが、意外であった。
 いずれにしろ、結局小里氏は日本でのファンド募集に見切りを付け、次のベンチャーの立ち上げに向かわれた。それが2012年創業のテックポイント・インクというわけである。
 実を言うと、小里氏の起業家としての創業はTechwellが最初ではなく、それ以前1995年に米国で作られたCD-ROM装置用半導体開発会社が最初で、その会社も数年で売却された。このように小里氏は正にシリアルアントレプレナー、それも日米を跨いで活躍するシリアルアントレプレナーなのだ。次に何を目指されるのか、大いに注目し期待したい。


※「THE INDEPENDENTS」2017年10月号 掲載