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「クラウドファンディング再考」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

2017年10月12日 大阪インデペンデンツクラブ登壇

ベンチャーコミュニティを巡って


 8月14日の日経新聞夕刊の文化面でクラウドファンディングによる資金調達で文化財の保存や修復を目指す取り組みが数件紹介されていた。神戸須磨の旧須磨観光ホテルの保存作業など、紹介されたいずれのケースにおいても調達が計画をかなり上回ったという。
 クラウドファンディングについては既にこのコラムの50回目、2013年1月号で取り上げ、そこでは米国のクラウドファンディングの普及を後押ししたJOBS法(2012年4月成立のJumpstart Our Business Startups Act)を中心に概説した。それから約4年、クラウドファンディングは世界的に見ても日本でもその普及はかなり進んでいるようである。 Crowd Expert(http://crowdexpert.com参照)によると2015年の世界のクラウドファンディング市場は340億ドルなっており、直近の成長率を考慮に入れると現状では500億ドル、約5兆円以上になっているものと推測される。日本について見ると、世界市場との比較ではかなり小さいものの近年急速に拡大している模様で、2016年度で500億円弱と推定されている(矢野経済研究所資料参照)。
 クラウドファンディングには幾つかの種類があり、その内世界で見ても日本でも貸付型(ソーシャルレンディングとも呼ばれ、ネットを利用して集めた資金を貸し付ける形)が最も金額的に大きく、次いで購入型(集めた資金をある特定の製品の開発のために使い、完成したらその製品がもらえたり、イベントに使われる場合はイベントのチケットがもらえたりする形)と寄付型(見返りを期待しない形)などに分けられる。
 世界では既に株式投資型と言って、公募した資金で会社の株式を購入する、謂わばVCの変形のような形のクラウドファンディングが拡大しつつある。日本では2015年5月の改正金融商品取引法によってようやく制度化された。それに伴い、2016年11月、第1号として日本クラウドキャピタルが第一種少額電子募集取引業者として登録され、今年7月末に2社目としてDANベンチャーキャピタルが参入を果たした。加えて日本でも既に最初の取扱業者である日本クラウドキャピタルの下で数件の資金調達が行われ始めている。
 資金調達という観点からクラウドファンディングを見てみると、インターネット利用によってより幅広いより多数の人々から、個々にはより少額の資金を低コストで調達ができるという点に大きな特徴がある。それは、資金提供側から見ると極端に言えば100円、200円といった極少額でも資金提供が可能となることを意味し、東京大学大学院の柳川範之氏も指摘するように(柳川範之「クラウド・ファンディングとこれからの金融市場」月刊資本市場2013.12参照)、これまでのような金銭的なリターンを期待しての資金提供以外の、資金提供対象事業への「期待」とか「思い」といったものよる資金提供が拡大していくことを意味する。それは逆に言えば、従来であれば金銭的リターンを生むことが難しく、そのため資金調達が出来ないような事業でも、上手くすれば調達が可能となることに繫がる。クラウドファンディングがもたらす新しい金融の在り方に注目したい。


※「THE INDEPENDENTS」2017年9月号 掲載