「「どうする、どうなる?日本のベンチャーキャピタル-課題と今後」」
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村口 和孝 氏 (株式会社日本テクノロジーベンチャーパートナーズ 代表)
豊貴 伸一 氏 (株式会社ジャフコ 取締役社長)
仮屋薗 聡一 氏 (一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 会長/株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージングパートナー)
郷治 友孝 氏 (株式会社東京大学エッジキャピタル代表取締役社長 マネージングパートナー)
コーディネーター:秦 信行 氏 (國學院大学 教授)
12月4日東洋大学で開催された日本ベンチャー学会全国大会の制度委員会セッションにて、ベンチャーキャピタル業界(VC)を代表する4名によるパネルディスカッションがおこなわれました。◆公的規制、制度面の課題
秦:いわゆるプロ向けファンド(適格機関投資家等特例業務)に関する金融商品取引法改正など、最近のVCに対する規制についてご意見を伺いたい。
村口:個人として、1998年に投資事業有限責任組合法に基づいた第1号のVCファンドを組成した。しかし最近は規制が複雑になってきた。基本的にはVCは(法的規制からは)自由な立場であるべきだと思っている。 郷治:経産省在職中に金商法特例法などVCに関する法律制度設計に関わったが、その時は民間VCの多様性と持続的発展を考え余計な規制をしないように心掛けた。しかし最近の政策は逆行しているのではないかと感じる。投資家保護に力点が入ってきて、出資者をプロ投資家に限定するという法案が検討されたり、VCのファンド募集に関する手続きも煩雑になっている。
秦:一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)と官公庁とはどのような関係か?
仮屋薗:第4次産業革命を迎え従来とは違うベンチャーへの対応が行政側にも必要になり、様々な省庁から政策相談を受けるようになった。ありとあらゆる産業がVCを活用してイノベーションを推進していく流れにあって、JVCAはベンチャー政策に関する横串的役割を果たしていきたい。
◆投資資金・LPの問題
秦:米国のVC資金量が拡大したのは1980年代に年金運用の弾力化による。当時数十億ドルのベンチャー投資資金によってバイオや通信分野で新しいベンチャーが生まれた。日本でも年金や郵貯資金をリスクマネーとして活用できないだろうか?
豊貴:VCは基本的には個人が主体の仕事であるが、法人としては金融業務に関する規制を受ける。運用期間10年で流動性がないVCファンドの出資者は、リスク許容度が高くて起業家への共感がある人に絞られる。ベンチャー投資に対する何らかの優遇措置がほしいとは思う。一方で公的資金を継続的に受け入れるためにはVC側の体制整備も必要である。
ユニコーンも突き詰めるとバブルでは片づけられない。あらゆる産業がデジタル化に向かっていく中で従来型ニッチ市場狙いやネットスペースのみの展開だけでは難しい。ど真ん中の産業を変えていくためには数十億円単位のリアル分野への投資が必要だ。VCファンドのサイズも最低100億、できれば2~300億円になっていく。ファンド出資額は1~2億円だとしたら、募集人数上限50人という規制がネックになる。せめて欧米並み100人ぐらいには緩和してほしい。
仮屋薗:昨年度の日本のVC資金は2000億で今年度3000億円に増えるだろう。しかし米国では5~6兆円、中国も今年の3兆円から来年は5~6兆円の規模だ。世界の中で日本のイノベーション投資額は極めて少ない。世界の投資家はイノベーションを求めて日本のベンチャーにも投資している。日本の国家としても、イノベーション投資を促進する制度設計が求められている。
◆投資手法の問題
秦:日本のVCはIPOを急かせすぎており、米国に比べてミドル・レーター段階への投資が少ないのではないかと言われている。
村口:もっと未リーガルな分野への投資を増やすべきだと思っている。例えば仮想通貨分野への投資に対して、法的問題が未整備だとして難色を示す出資者もいる。
豊貴:基本的には村口さんの考えに大賛成だ。インターネットには規制が少なかったので成長した。しかしこれからインターネットは成長を求めて規制のある業界へ入っていく。
秦:M&Aによる資金回収状況はどうか。
郷治:私どものケースでは海外向けM&Aが増えている。基本はIPO狙いだが、最近は投資前から企業とエグジットに関するディスカッションを行う事もある。
◆キャピタリスト育成などの問題
豊貴:先輩が後輩を指導していく事も大切。10年で1サイクルとするVC業務の最低十分条件を満たすキャピタリスト教育はできる。しかし本質的にはキャピタリストは育成できない。その人の人生観、メンタル面が重要だからだ。事業が計画通りにいかず資金的に逼迫したときに追加投資をするかどうかのギリギリの判断や勇気は教育では教えられない。
仮屋薗:JVCAではベンチャーキャピタリスト研修を始めて14期目になる。今年は80名が受講しており成果が出始めたと感じている。
◆日本の起業家と新たな投資領域
村口:リーマンショックで日本のベンチャー関係は5年遅れたがようやく挽回してきた。若くて優秀な人が起業で活躍する例が顕著になっている。一方で就職に有利だからと言って起業する学生もいる。
豊貴:我々の投資対象となる起業家は増えていると感じる。IPOしたIT会社からの経営者やエンジニアが新たなベンチャー設立に関わるケースもよくある。ジャフコのアイデンティティーはCo-Founderにあると思っている。AIやIoTの進化による社会構造の変化、規制緩和や技術革新で成長が期待できる医療用ナノボットなど投資フロンティアはたくさんある。
―2016年12月4日 日本ベンチャー学会全国大会 制度委員会セッション(東洋大学)にて