鮫島正洋の知財インタビュー

再生医療分野に挑戦する富山大学発ベンチャーの知財戦略

■ ハイパードライ羊膜

鮫島：胎盤の一部である羊膜を再生医療に活用するために富山県の産学官医工連携企業として設立されました。
田中：親会社の㈱ＴＳＳでは精密機械製造業でしたが、医療機器分野への進出を考えていました。富山県新世紀産業機構さんからの紹介を受けて、富山大学と二階堂教授の研究成果であるハイパードライ羊膜技術を広島のポエックさんと連携して事業化に踏み切りました。
鮫島：ハイパードライ羊膜は生羊膜の有用性を保持しながら保存性やハンドリング性を高める画期的製品ですが、製造方法の特徴を教えてください。
田中：赤外線とマイクロ波を組み合せた乾燥技術で日米欧で特許を取得しています。（※日本の特許は富山大とさくら精機が保有）
鮫島：事業化のための資金調達や市場戦略はどのようにお考えですか？
田中：規制のハードルの低さと投資額の観点から米国市場から参入して、その後に日本展開する計画です。2017年にはGMP準拠の工場を建設します。

■ 羊膜確保のネットワークシステム

鮫島：原材料となる羊膜の安定的な回収システム構築も課題になります。
田中：羊膜は医療廃棄物として処理されますが、私どもでは大田区内で調達しています。当面の数量確保は問題ありませんが、今後の事業拡大に備えて、富山を含めた北陸や関西での病院ネットワークを開拓中です。
鮫島：医工連携を進めるAMED（日本医療開発研究機構）では医者との協力関係をどう築くかについても議論しています。妊婦からの同意書入手など法的に問題のないドナーシステム構築が重要ですね。
田中：法的な面と医療機器としての安全性を考慮した仕組みづくりを現在検討しています。

■ 海外展開と知財戦略

鮫島：米国市場参入を優先する事業戦略ですが、米国市場の競合先はどのような状況ですか？
田中：米国では主に創傷被覆材の領域で市場は急成長しており、米国の大手ベンチャー企業の2015年売上は200億円と4年間で20倍に成長しています。
鮫島：日米の医療分野では治験期間や規制で大きく違います。海外展開においては、市場戦略だけでなく知財戦略も重要になります。
田中：私どもは国内では富山大学が特許を保持していますが、米国では物質、製法、用途についての特許をアムノスとして取得しています。米国の他社より先に特許成立していますが、周辺特許や出願件数は競合が圧倒しており、周辺部で侵害しないような対策も課題のひとつです。
鮫島：知財戦略を進める際に競合先の知財調査はとても重要になります。会社名だけでなくキーワードとなる用語での検索も行い、競合先対策を先手で打つことです。必須特許を押さえる事で競合先との無用な争いを避けることもできます。本日はありがとうございました。

―対談後のコメント

【田中】これまでも、特許戦略が重要であるという認識はあったものの、今回は、特に医療機器分野での米国進出において、それがビジネスの根幹とすらなるということの理解を深めました。今後はリスクの低減と、チャンスの拡大のためにも、知財に関する知識をさらに深める必要があると痛感しました。
【鮫島】必須特許なくして市場参入なし。アムノス社は競合他社に先駆けて米国での必須特許をおさえたからこそ、羊膜を使った創傷被覆材という成長分野での事業展開が可能になっています。特に医療機器分野は日欧米への展開はマストであり、グローバルな知財戦略が重要になります。

―「THE INDEPENDENTS」2016年11月号 P20-21より