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「栄枯盛衰」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)



ベンチャーコミュニティを巡って


小売業界には様々な業態があり、かつ市場も大きいので、時代によってどの業態が中心的な業態かを見極めることは難しい。とはいえ上場している小売企業、ないしは小売業界の時価総額の推移をみると、それがかなり明確に分かる。かつて、ある方がそうした分析をされた論文を拝見した覚えがある。

それによると、戦後の小売業界で最初に時価総額が大きくなった小売業態は三越、高島屋といった百貨店であった。上場百貨店が小売業態の中で最も大きな時価総額を誇ったのは戦後すぐから1970年代の初めごろまで、その後2000年に向けて小売業界の雄であったのはイトーヨーカ堂やダイエーといったGMS=General Merchandising Storeであった。

そして、2000年以降は明らかに小売業態の雄は、セブン-イレブン、ローソンといったコンビニエンス・ストア=CVS=Convenience Storeに取って代られる。

かつて読んだその論文では、確か百貨店、GMS、CVSといった小売業態ごとの時価総額を計算されていたように記憶するが、ここでは簡単に百貨店代表の三越、GMS代表のイトーヨーカ堂、CVS代表のセブン-イレブンの1970年以降の時価総額の推移を見てみたい。

1970年1月年初では、三越の時価総額が約600億円、イトーヨーカ堂がとセブン-イレブンは上場前で比較できず、1972年9月に東証2部に上場したイトーヨーカ堂は12月初めで約400億円、一方その時点の三越は約1900億円と大きな差があった。それが1980年になると急接近、1980年年初の時価総額は三越が約1900億円、イトーヨーカ堂は約2000億円でわずかではあるがヨーカ堂が上回る結果となった。セブンはその3ヶ月前1979年10月に東証2部上場しており、1980年年初の時価総額はまだ約550億円であった。

ところがその10年後1990年になると、三越の時価総額は約1兆1600億円、それに対してイトーヨーカ堂は既に三越を上回る約1兆7700億円、さらにセブンも時価総額は既に1兆7500億円と三越を上回り、ヨーカ堂に接近する状態となった。そのまた10年後21世紀の入り口でみると、三越は1900億円と大きく時価総額を減らしてしまい、逆にイトーヨーカ堂は約4兆、セブンに至っては約13兆円とヨーカ堂をもはるかに凌駕してしまった。

ご存知のように、その後ヨーカ堂とセブンは持ち株会社として統合され、現在それぞれの時価総額は分からなくなっている。しかし、ヨーカ堂のセグメント利益が赤字になったことを考えると、セブンとの差はさらに大きくなっていることは間違いない。これに対して三越は伊勢丹と統合したのだが、現状時価総額は約5000億円に過ぎない。

「栄枯盛衰」。「奢れるもの久しからず」。最近の日本のエレクトロニクス業界、とりわけシャープを見ると、この言葉は経済・経営の世界でも当てはまるが理解されよう。しかも、最近その変化は一段と激しく、変化のサイクルは短くなっているように思われる。

「新しい酒は新しい革袋に盛れ」。この言葉は新約聖書「マタイ伝」第9章の言葉である。過去の例を見ても、新しい事業や産業(新しい酒)は、新しく生まれてくる企業(革袋)に担われる必要がある。数多くのベンチャーの登場に期待したい。


※「THE INDEPENDENTS」2016年5号 - p21より