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「「ベンチャー企業のための知財戦略入門」」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
代表弁護士 鮫島 正洋 氏
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業後、藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。2004年7月内田・鮫島法律事務所開設。

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■ 下町ロケット「神谷弁護士」のモデルと言われて

ある晩、池井戸潤さんと酒を飲んでいたら、「今度、特許訴訟をネタに小説を書いてみようかな・・」と突然言われ、特許訴訟のレクチャーをする事になりました。数ヶ月後、送られてきた青い単行本には「お世話になったので、鮫島さんの事、書いておきました・・・」と付箋が貼ってありました。私は、ものづくり中小企業を中心顧客とする法律事務所を経営しています。2004年から地域中小企業知的戦略財産啓発プロジェクトの主査を務め、2012年に知財功労賞(経済産業大臣表彰)を受賞いたしました。社是は「技術法務をもって日本の競争力に貢献する」です。地方創生では中小企業の知的財産戦略が重要なテーマになっています。大企業の下請け時代には生産能力増強が求められました。下請けである限り知財は関係ありませんでした。しかし、これからは自分たちの技術による独自製品開発力が求められています。そのためには、自分たちの技術を守り、そして攻めるための知財戦略・技術法務が必須となります。

■ 技術ビジネスの本質

技術をマネタイズする方法は、「ものづくり(物売り)」か「ライセンス」のいずれかになります。ものづくりは設備投資が伴うのでハイリスク・ハイリターン型。ライセンス料は数パーセントなのでローリスク・ローリターン型です。一般的には、ベンチャー企業がライセンスだけで上場するのは難しく、ものづくりとの併用になります。たとえば、日本ではものづくり、海外ではライセンスというようなビジネスモデルになります。

■ ニッチトップへの道と知財戦略・技術法務

(1)R&Dの前にマーケティングあれ
ニッチトップこそがベンチャー企業が選ぶ正しい戦略だと私は考えています。自分の身の丈に合ったマーケット規模で勝負する方が成功確率は高まります。マーケットニーズと技術ニーズを先取りして研究開発する事が重要です。
(2)R&Dの成果は知財化せよ
小規模ながらも先行特許が少ない市場を選べば、訴求範囲が広い(強い)特許が取れます。研究開発の成果を必須特許化して、他社に参入させない事で利益率が高いビジネスができます。
(3)必須特許なくして市場参入なし
小さな市場であれば製造・販売は自前で、大きめの市場では大企業と連携するのがセオリーです。大企業との連携においては、市場参入に必須な特許を押えている事と、大企業の知財部に対抗できる技術法務力が重要になります。

■ 特許投資によるコストとリターン

(1)特許化とノウハウのすみわけ
侵害が検出できないノウハウに競争力がある、物自体はコモディティ化していてサービスで勝負する場合には特許取得は難しい。しかし大企業と競合するマーケットで勝負するベンチャーは特許の必要性が高まります。
(2)ITサービス系企業は個別判断
ビジネスモデル特許数件でうまくサービスをカバーできるケース、GUIなど侵害検出性がある部分で特許取得できるケースがあります。
(3)特許品質のQuality Control
せっかく特許を取得したのに、取り方が悪くて模倣排除ができない事例が多発しています。「特許請求の範囲」は、①非本質的限定がない②文言が明確③検出不能・立証困難な構成要件が存在しない④実施主体の単一性などがポインになります。特許発明の内容を説明する「明細書」「図面」には、特許法36条の要件を具備し、ノウハウ流出をなくすことも重要です。
(4)特許取得費用
国内では1件100万円、海外では1か国につき200万円とベンチャー・中小企業にとっての負荷は低くはありません。1・2件ではともかく、5件程度特許取得できれば参入障壁を作れます。知財からどのくらいの市場シェアが取れるかが特許投資の判断材料になります。

(参考)ベンチャー企業の競争力に資する注目の知的施策
・知的金融・知的ビジネス評価書(特許庁)による知財金融による資金調達
・新市場創造型標準化制度(経済産業省)によるJIS規格取得での自社技術アピール


2016年2月8日インデペンデンツクラブ月例会(東京21cクラブ)にて