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「官民ファンドの意義と課題」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

ベンチャーコミュニティを巡って

 
第二次安倍内閣での成長戦略、その戦略の柱であるベンチャー支援の拡充に向けて、ベンチャー・コミュニティにおいても、官民ファンドが増加している。

第二次安倍政権成立以前、2009年に「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産活法)」に基づき、運用期間15年と定められてスタートした産業革新機構も官民ファンドに含めるとその資金量はかなりの大きさになる。

さらに、昨年発表された東京、京都、大阪、東北、4国立大学VC(国立大学法人が100%出資するVC)が運用を考えているファンドも加わる。政府が用意するこれら4国立大学VCが運用するファンドの総額は、合計で1,000億円以上になるものと予想される。4国立大学VC設立の目的は、出資母体であるそれぞれの大学で研究開発された技術を活用し、事業化を目指すベンチャーを育成することにある。

確かに現状、日本のみならず米国のベンチャーキャピタルを見ても、多くはITやインターネット関連のベンチャーや事業に投資されており、もの作り・技術系ベンチャーへの投資は減少傾向にあると思われる。理由は簡単で、IT、ネット系ベンチャーへの投資は、1件あたりの投資金額も相対的に小さく、資金回収期間も短いためである。その結果、もの作り・技術系ベンチャーは、総じて資金調達に苦労している。

さらに日本について言えば、そもそもベンチャーキャピタル自体の資金量が小さく、もの作り・技術系ベンチャーの中には、資金不足によって開発が進まないベンチャーも多い。

そうした状況の中で、官民ファンドの資金、中でも先述の4大学VCが運用するファンド資金は、もの作り・技術系ベンチャーの育成資金として期待されている。

ただ、官民ファンドについては懸念材料も存在する。その大きな1つが、民業圧迫の懸念である。特に4国立大学VCについては、それぞれの大学の技術シードを活用したベンチャーに投資する民間VCは既に存在し、そのファンドがかなりの実績を上げている(勿論、そうしたVCファンドは、大学の技術を利用して生まれたベンチャー以外にも投資しているが)。国立大学VCは、それら民間VCへの影響に十分配慮する必要がある。

2つ目はVC運営体制のガバナンス面での懸念である。国立大学VCは国立大学法人100%出資であり、ファンド資金の大半は政府が用意してくれる。民間のファンド出資者も募るところもあるが、現実に出資するところがどの程度あるか。設立するVCのメンバーに外部から人を入れる予定にはなっているが、それでどの程度内部牽制が働くのか。

最後は人材の問題である。残念ながら、VC業務を遂行できる経験を積んだ人材は日本ではまだ少ない。彼らを上手くスカウトできるかどうか。

懸念材料は幾つかある。しかし、ベンチャーに供給される資金が増えることは朗報には違いない。国立大学VCファンドに用意されている政府資金の何%かをFund of Fundとして民間ファンドに振り向けるなど、より有効な使い方を望みたい。

※「THE INDEPENDENTS」2015年7月号 - p16より