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「不信感」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 日本の株式市場全体のIPO企業数は、2009年には19社まで落ち込んだが、2010年22社、2011年37社、2012年48社、2013年58社と増加し、昨年2014年は80社にまで増加した。2015年に入ってもIPOは順調で、市場関係者の最近までの話では今年は久々に100社を超えるのではないかという声も聞かれた。

 年間IPO社数の直近のピークである2006年の188社から2009年の19社までIPOが急激に減少した背景には、2008年秋のリーマンショックの影響もあるが、日本の場合は日本独自の問題があった。事実日本の場合、リーマンショック以前から減少は始まっていたのだ。

 それが、ライブドアを始めとしたベンチャー企業、起業家の不祥事によって投資家に不信感を与えた問題である。その結果、上場審査が厳しくなると同時に、マザーズなど新興市場の株価が低迷したことが挙げられる。市場の株価が低迷し、IPO時の公開価格がそれに引きずられて下がってしまうと、株式公開する意味合いは薄れてしまう。

 実はご存知のように、2006年当時と似たような問題、つまり投資家の不信感を生むような問題が最近も発生した。それは、昨年12月18日に東証一部市場に上場したスマートフォンゲーム会社gumiの問題に他ならない。

 昨年12月に上場したgumiは、上場当時はスマートフォン向けゲームの勝ち組みとして投資家の評価も高く、将来性が期待されていた。公開価格は3,300円、初値も同様に3,300円、時価総額約1,000億円の大型IPOとして注目されていたが、3月5日、IPOから2ヵ月半の時点で突如2015年4月第3四半期期決算開示前日に業績の下方修正、それも赤字転落を発表した。IPO時の計画では、売上は300億円強、営業利益は13億円の黒字としていたものが、売上は265億円に、営業利益は4億円の赤字に修正された。当然、市場は大きく反応し、株価は2営業日続けてストップ安となった。

 この発表に続いてgumiは、3月27日に100名程度の希望退職者の募集も発表した。3ヶ月前のIPO時は黒字転換の計画を公表していたのであるから、投資家の不信感を増幅させる結果になったのは当然であった。

 確かにゲーム業界は競争も激しく、収益の中心となるゲームソフトが市場にどの程度受け入れられるかどうか読みづらい業界であることは確かであろう。同時に、gumiがコンプライアンス問題に抵触したわけでもない。とはいえ上場後直後に業績下方修正、しかも赤字への修正となると予実管理の面で問題だといわざるを得ない。

 加えて、これがgumi一社のことで終われば問題は小さい。怖いのは、2006年当時のようにこれがベンチャー全体の問題に波及し、ベンチャー全体への投資家、さらには世間一般の不信感に繋がることである。幸い、gumiの4月以降の株価は1,500円を維持している。それが何を意味しているのか。いずれにしても、ベンチャー企業家諸氏の市場、投資家、そして社会全体への慎重な対応を望みたい。

※「THE INDEPENDENTS」2015年5月号 - p20より