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「「大学発ベンチャーの戦略と課題」」

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日本ベンチャー学会 会長
大阪商業大学 総合経営学部 教授
金井 一頼 氏

1981年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。1981年弘前大学人文学部講師、助教授。1985年滋賀大学経済学部助教授。1989年北海道大学経済学部助教授。1995年北海道大学経済学部教授。2000年北海道大学大学院経済学研究科教授。2004年大阪大学大学院経済学研究科教授。2012年大阪商業大学総合経営学部教授。大阪大学名誉教授。現在に至る。

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アベノミクス成長戦略で開業率が焦点になっていますが、重要な事は産業の新陳代謝です。そのためには大きな技術転換が必要であり、その鍵となるのが大学発ベンチャーです。

大学の伝統的使命である研究(知の創造)と教育(知の伝承、普及)から、現在は新しい使命として、産学連携による経済価値創造(知の活用)が認識されてきました。従来の共同研究・委託研究、ライセンシング(TLO知財戦略)では、即効性を求める産業界の期待に十分応えられなくなっています。一方でわが国の大学に対する研究教育の国家予算が少ないという問題があります。研究費の強化や学生教育の観点からも大学発ベンチャーに対する期待が大学側からも高まってきました。米国では、大学技術の商業化は経済発展の促進に繋がり、大きな経済的価値、雇用創出効果があったと報告されております。ある調査によると、米国での大学発ベンチャーのIPO比率は8%強と高業績企業が多いのが特徴です。しかしここで問題となるのは、知の創造と経済価値の創造の間にある「死の谷」の存在です。

わが国の大学発ベンチャーは、平沼プラン(2001年5月)による「大学発ベンチャー1000社計画」で一気に増えました。現在までに2121社が設立され、1809社が活動(2008年度報告)しており、24社がIPO達成しています。2008年度の設立数は55社と低調でしたが、最近はユーグレナやペプチドリーム等期待できる動きも見られます。

大学発ベンチャーの特徴は、学と産で異なった行動ロジックや文化の影響がある点です。
技術中心の企業創造である事が多く、ラディカルなアーリーステージの技術は、既存企業への移転が困難なケースが多々見受けられます。そのためには、単に有用な技術をもとに企業創造するのではなく、役に立つ技術(経済的価値)の見極めが鍵となります。

大学発ベンチャー成功の鍵は、まずは起業機会の認識を高める事、そして「死の谷」の克服です。対象市場の見極めと、経営資源、特に資金と人材が動員ができるかが重要になります。産業界での実務経験やコンサルタント経験がある研究者は、研究成果の実用化への関心が高い傾向にあります。学と産の溝を埋める仕組みとして、研究者の兼業や兼職、ベンチャー支援制度等、起業のロールモデル確立があります。「死の谷」の克服には、「技術ドメインの定義」を知識創造から問題解決型知識創造へ転換する事業戦略が求められます。市場ニーズのある分野で実績を上げてから未成熟な有望分野を手がける「技術のパスファインディング戦略」や保有技術で顕在化している市場ニーズに対応するとともに基幹技術の開発を継続する「事業ミックス戦略」などの柔軟性が大切です。多様なバックグラウンドを有する企業家チームの形成も重要です。起業・経営の知識、技術知識、市場知識、製品開発・製造知識は、一人の企業家に依存するのではなくチームで解決する事です。

大学発ベンチャーに必要なギャップファンドによる資金調達、企業との連携、人材ネットワークの広がりも必要です。

大学発ベンチャーの課題としては、イノベーション・エコシステム形成の必要性があります。チャーターカスタマーとしての公の重要性、SBIRによる公の顧客としての役割、企業家教育の充実もあります。大学も産学連携のなかでの大学発ベンチャーの位置づけを明確する必要があります。地域分権の推進、戦略的クラスターにおいては、地域における独自の産学官連携モデルの創造が求められます。

今年11月の日本ベンチャー学会全国大会では「我が国におけるイノベーション・エコシステムの構築」がテーマです。多様なプレイヤーの連携やチーム作りが、これからの大学発ベンチャーの成功に特に大切な事になります。

2014年10月2日大阪インデペンデンツクラブ 基調講演より