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「「大学発ベンチャーへの期待」」

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日本ベンチャーキャピタル株式会社
代表取締役社長 奥原 主一 氏
1992年東京大学工学部産業機械工学科卒。
1994年東京大学工学系研究科情報機械工学修了後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。
大手メーカーにて最先端の技術コンサルティングに関与。
1998年日本ベンチャーキャピタル入社。2008年取締役投資部長就任。2009年4月代表取締役就任。

バイオ・サイト・キャピタル株式会社
代表取締役 谷 正之 氏
1960年2月大分県生まれ。1982年熊本大学法文学部卒業。同年野村證券株式会社に入社。
約14年間に亙ってIPO業務に携わる。ナスダック・ジャパン市場開設のため、1999年にナスダック・ジャパン株式会社に転職し、市場開設と誘致活動に取り組む。
ナスダックの日本撤退を契機に、バイオ・サイト・キャピタル株式会社の設立に参画。

みやこキャピタル株式会社
取締役副社長 岡橋 寛明 氏
経済産業省にて投資事業有限責任組合法の制定・改正、LLC法、LLP法の制定等会社法の現代化含めベンチャー支援・振興、産業金融・税制に関する各種施策の企画・立案を担当。
退官後、複数のベンチャー企業の経営を経て、三井住友海上キャピタル株式会社において国内外のベンチャー企業の投資開発・経営支援に従事。
2013年に当社設立。東京大学経済学部卒。コロンビア大学MBA。

―文科省の大学発新産業創出プロジェクト(START)、NEDOやJSTによる産学連携の取り組み、国立大学の研究成果に対する事業化投資解禁など、大学発ベンチャーをめぐる環境はここ最近変化してきている。本日は大学ファンドのGPとして活動実績のある三者より、「大学発ベンチャーへの期待」について議論したい。

谷:バイオ・ライフサイエンス型に特化したブティック型VCとしての投資活動に留まらず、大阪大学連携型起業家育成施設である「彩都バイオインキュベータ」などのレンタルラボを提供することによって、投資先・入居先企業に寄り添って、ハンズオン支援など総合的インキュベーションビジネスを展開している。
奥原:これまでに京都大学・同志社大学・大阪大学の大学ファンドを運用し、また関西私立大学の大学ファンド組成も今後予定している。京大ファンド1号では累計26社に投資実行し、既にIPO3社と売却7社で良い結果も出てきている。
岡橋:みやこキャピタルは2013年8月に京都大学産官学連携本部の公募により京大ベンチャーファンド2号の運営事業者に採択され、同年9月に設立し12月に京都大学との相互協力を定める契約を締結したところ。京都大学の有力な資源(人材、知財)を利活用するベンチャー企業を主な投資対象としており、2014年7月にIT/金融分野の京都大学発ベンチャーに対して投資を実行し本格的に活動を開始した。今後、資金募集と並行して投資活動を積極的に展開してまいりたい。

―大学発ベンチャーを牽引してきたバイオ企業の現状はどのようなものか。
谷:これまでバイオ企業の支援を通じて感じたのは「行政の壁が厚い」ということ。臨床試験の段階において、行政側の手続きプロセスが不明瞭で何をどこまでやればよいか明確なプランが立てられず、体力の限界を迎えてしまう企業を多く見てきた。現在フェーズⅡにおいて、安全性と一定の機能が「確認」ではなく「推定」されれば市販を認める”仮免制度”が検討されている。これが実現すれば、非常によい方向に向かうものと考えている。

―ICT分野の資金調達環境はここ数年非常に良くなってきている。
奥原:SNSサービスやアプリ開発企業が大きな投資を集めているが、我々はあまりターゲットとしていない。テクノロジーを基盤とするソフトウェアやネットワーク技術の企業の方に可能性を感じる。こういう会社はたとえうまくいかなかったとしても、技術そのものや経営者が残る。そういう点で大学発ベンチャーは魅力的だ。

―STARTプロジェクトでは具体的にどのような取り組みをされているのか。
谷:大学発技術の事業化は、起業前にそのロードマップをしっかり固めることが大事というのが本プロジェクトの背景。当社が支援する沖縄プロテイントモグラフィー(沖縄科学技術大学院大学発ベンチャー)は、3次元構造解析において世界唯一の技術を保有しているが、事業化前のメンタリングを通じて詳細な事業計画を策定している。そのため、製薬会社との契約が取れるまでの必要資金しか出資しておらず、それが達成されれば沖縄振興開発金融公庫と一緒に1億円追加投資することをコミットしている。

―大学発ベンチャーの成功のポイントは何か。
奥原:大学発ベンチャーで最も成功しているスタンフォード大学において、その研究者が企業のボードメンバーに入っている割合は5%未満でしかない。大学知財を活用した企業が本来的な意味での大学発ベンチャーであり、日本にはその概念が曲解されて入ってきた。研究者が経営者になって成功するというのは幻想と考えた方がよい。
岡橋:最適なガバナンスや皆が納得のいく資本構成、役割分担になっていることが成功の鍵を握る。研究者はその知財の対価として得られる株式を保有し、経営は専門家に任せながらも、株主として、また研究開発の責任者として会社に貢献することが望ましいのではないか。
谷:大学側も知財に対する認識を改めないといけない。STARTプロジェクトにおいて、学生係が知財の世話をしているものも散見される。知財にかける予算もまだまだ少なく、そのために共同研究先企業との共願にしてしまうので事業化の際に整理するのが大変になる。バイオ産業においては新しい知見・発見が日進月歩で進み、それを支える分析技術も発達してきていて、他産業との融合もこれから本格化するだろう。STARTプロジェクトや規制緩和など行政によるサポートも手厚くなってきており、明るいムードはある。これからの大学発ベンチャーに期待したい。

2014年8月5日京都インデペンデンツクラブ in KRP-WEEK パネルディスカッションより

「THE INDEPENDENTS」2014年9月号 - p12掲載