「「ビジネス・アントレプレナーとソーシャル・アントレプレナー」」
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國學院大学
教授 秦 信行 氏
野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)
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NPO法人エティック(ETIC)という組織をご存知であろうか。代表は宮城治男氏、今年で設立20年目を迎えた。宮城氏は20代半ばからこの組織の運営を続けている。事業は、一貫して若手起業家、起業家を目指す若者、未来を切り拓く自立を目指す若者の支援、中央・地方行政とのタイアップなども行いながら様々な事業を展開している。NPO法人であるETICが20年続いていることに対してまずは大きな敬意を表したい。
代表の宮城氏は、1990年代末には渋谷ビットバレーの事務局長としてベルファーレでの最後の会合も企画するといった経験もしている。その後2000年以降は、社会変革を目指す社会起業家=ソーシャル・アントレプレナーの支援に力を入れている。
その宮城氏から、最近のETICの活動などに関して話を聞く機会があり、幾つか興味深い指摘を得た。
その一つは、2010年頃以降、つまり例のホリエモンの事件などベンチャーの不祥事が相次ぎ、その後のリーマン・ショックでベンチャー・コミュニティが大きく冷え込んだ時期以降、起業家的な生き方を志向するというか、自立的に生きて行こうとする若者が確実に増えているという指摘である。中でも、社会変革に貢献できる生き方をしたいと考える若者が増えているのだと。同時に宮城氏は、そうした流れについて、3年前の2011年3月11日の東日本大震災が一つの大きな分水嶺になったのではないかと言う。
自立的に生きて行こうとする若者達は、決して浮ついた気持ちで、つまりマスコミなどで社会起業家が取り上げられるようになったから社会起業家を目指しているのではなく、自分の生き方を自分自身に深く問うた上でそうした道を選択しているし、自身の進む道を事前に良く勉強した上で進んでいる頭の良い若者が多いのだとも言う。
筆者は数年前から社会起業家を育成支援する組織のお手伝いをしているが、最初のうちは社会起業家という言葉そのものに何か偽善的な匂いを感じていた。事業を行うのであるから単に起業家でいいのではないか、何故殊更社会起業家と呼ぶ必要があるのか、事業であれば利益を上げるのは当然であり、それが出来ないのであれば事業として成立しないし、慈善事業であれば長続きはしないはずだ、と。
しかし今回宮城氏の話を聞いて、明確に社会起業家の意味が分かったような気がした。つまり社会起業家とは、事業を通じてリターンの大きさではなく、何らかの社会変革への貢献という「志」が事業継続の梃子になる起業家のことを言うのだと。勿論事業継続のためには最低限事業が継続して行くだけのリターンが無ければならないが、その大きさはどうでもよく、「志」さえ満たされていれば社会起業家は事業を続けていくことになる。
こうしたソーシャル・アントレプレナーと従来型のリターンの大きさを追うビジネス・アントレプレナー、双方が揃うことで社会は自己変革をしながら成長して行くことになるのではないか。若い社会起業家の台頭を歓迎したい。
※「THE INDEPENDENTS」2014年9月号 - p15より