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「「急成長企業の魅力と意義」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 ついにフェースブックが米国ナスダック市場に上場した。

初値42.05ドルを基にした時価総額は1,150億ドル、日本円で9兆円以上と日本の株式市場での時価総額トップの企業トヨタ自動車に並ぶ時価総額を記録した。

 ギリシャ問題の再燃に伴う株式市場環境の悪化で株価の行方が心配されたが、初値42.05ドルは上場時公募・売出価格の38ドルを11%弱上回る価格でまずまずの出足といえよう。

 ご承知のように、フェースブックは2004年創業者のザッカ―バーグが確かハーバード大学の2年生か3年生の時に大学内で始めた会社だ。最初は女学生の新入生を品定めのためといった目的も含めた新入生写真アルバムといった趣向のビジネスだった。それがあっという間に全米の大学に拡大し、やがて大学の外と米国の外に広がった。今や会員数は世界で9億人を超え、世界人口70億人の10人に1人以上が会員として利用するビジネスになっている。かくいう筆者もヘビーユーザーではないものの会員の一人である。

 創業から8年、上場に至るまでの時間では米国では決して早い方ではないが、しかし、急成長企業であることは間違いない。

 筆者は、勿論それがすべてではないが、ベンチャーと呼ばれる企業の魅力の一つは急成長にあると考えている。8年前ほとんどゼロに近い価値しかなかった企業が8年で10兆円に近い価値を持つに至る。それは、企業家や投資家にとって極めて大きな魅力である事は間違いない。ベンチャーの投資家の代表格であるVCにとっては、そうした企業が投資を実行する何社かに1社出てくる結果として、VCファンドのパフォーマンスを引き上げ、ファンド出資者にとっても魅力ある存在にすることが出来る。

 米国で代表的なVCであるクライナー・パーキンス(KPCB)の第1号ファンドを見ると、ファンド全体で17社に投資し12年で約27倍になった大成功ファンドだった。しかし、その中身をみると、17社の内Tandem Computersとバイオの Genentechがそれぞれ100倍、236倍を稼いでおり、少なくとも9社のリターンはほぼゼロに近く、残り6社はそこそこのリターンしか残していない。つまり、上記の急成長2社がVCファンドを出資者からみても魅力あるものにした結果、KPCBの次のファンドも資金を集めることが出来たのだ。

 急成長ベンチャーの魅力は金銭的なリターンの大きさだけではない。フェースブック単独の従業員数は4,000人弱とそんなに多くはないが、この会社が登場し成長することで社会全体で増加した雇用数を計算すると相当大きな数字になると推測される。

 急成長ベンチャーの魅力や意義はその他にも多々挙げられよう。新規創業ベンチャーは急成長しないと意味がないとは言わないが、急成長が魅力・意義の大きな1つとは言えよう。少なくとも10年に1社位そうしたベンチャーが生まれる米国とそうでない日本、何が違うのか、喫緊に考えてみる必要のある問題であることは間違いない。