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「「IT系ベンチャーの新潮流」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 どん底だったベンチャーコミュニティにも少し光が差してきたようだ。

 先ごろ発表されたVECの「2011年度ベンチャーキャピタル等投資動向調査結果(速報値)を見ると、2010年度の年間VC投融資額は1,132億円、前年比43.5%増となり、1,000億円台の投融資額に戻った。

 2011年の数値も見られるJVCA投資動向調査で第2四半期までを見ると、水準はともかくとして、前年比で見ると46.1%増加しており、一応の回復を窺わせる。

 そうしたマクロ状況とは別に、今年に入りIT分野での若手企業家による創業が増加しており、それをサポートするインキュベーターやVCの活動も活発化している。

 NPO法人Japan Venture Researchの理念を実現すべく作られた調査会社株式会社ジャパンベンチャーリサーチが最近「ITCスタートアップ・アクセラレーター元年」と題したレポートを出した。そのレポートにそうした動きが紹介されているので、詳しくはそちらを見て頂きたいのだが、ベンチャーコミュニティにおける明るい話題の一つといえる。

 こうした動きは、米国でも2年位前から起こっている。背景には、クラウドコンピューティングの出現により、システムインフラなどへの多額の投資が不要になり、創業コストが大幅に低下したことが挙げられる。加えて、GPSなどの技術が普及、スマートフォンやSNSなどの出現で、それらのプラットフォームに向けた様々なアプリケーションの開発が求められるなかで、子供の頃から先進的IT環境に慣れ親しんだ若者が自身のアイデアを事業化する動きが日米で起こっているわけだ。

 同時に、シリコンバレーでは500スタートアップスといった、多数のベンチャーへ小額の投資を行う小規模なファンドがエンジェルを中心に組成されている。日本でも状況は似ており、大手VCの投資が進まない中、2000年以降IPOしたIT系ベンチャーや企業家などが出資するインフィニティ・ベンチャーズなどIT系創業企業のスタートアップないしはアーリーステージに特化して小額投資するVCファームや小規模ファンドが生れている。

 学生も含めた若者によってIT系企業が相次いで創業されるという動きは、就職氷河期であった1990年代後半からITバブルの崩壊を経て2000年代半ば頃までの時期にも日本で見られた。ただ今回のIT系創業企業・企業家の台頭を前回と比較すると、今回の企業・企業家は当初からグローバルな視点で創業している点が大きく異なっているように思う。例えば必ずしも日本での創業に拘っていないことや市場も常に世界を意識した展開を考えていることなどである。それと前回の一部企業家の行きすぎた行動とそれへの社会の批判を経験しているだけに、経営や財務について理解度の高い企業家が多いようにも見える。

 確かにIT分野ではベンチャー企業・企業家が増加し、それへの資金供給も増えている。しかし、一方で製造業系・開発系のベンチャーへの資金供給は依然として低調のままである。そうした分野の本格回復が待たれる。

※「THE INDEPENDENTS」2011年12月号より