スタートアップ法務・知財の勘所(11) ~POC成果と特許出願~ 契約と特許明細書は一体で設計する
1 はじめに
前回は、POC契約において生成されるデータの取扱いについて述べました。POCでは、データだけでなく、新たな発明が創出されることも少なくありません。
もっとも、POCで生じた成果については、「誰が発明者なのか」「誰が特許を受ける権利を有するのか」を巡り、紛争となるケースが少なくありません。
そこで今回は、POCで創出された成果について特許出願を行う際の留意点を、契約と特許明細書という二つの視点から検討します。
2 POCで生じる典型例
例えば、大企業Y社は、生産ラインにおける画像検査精度の向上という課題を有していました。
そこで、画像認識AIを有するスタートアップX社との間でPOCを実施します。
Y社は、「不良品をより高精度に検出したい」という課題だけを提示しました。これに対し、X社は、特徴量の抽出方法、AI学習方法、推論アルゴリズム等を独自に考案し、大幅な精度向上を実現しました。すなわち、課題はY社が提示したものの、解決手段自体は全てX社が創作したという事例です。
3 契約上の留意点
POC契約では、スタートアップとしては、POCで創出された成果は全て自社に帰属する旨を規定することが望ましいでしょう。
もっとも、実務では、大企業との交渉力の差から、「単独で創作した知的財産は創作者に帰属し、共同で創作した知的財産は共同帰属とする。」といった規定に落ち着くことも少なくありません。
このような場合、「単独で創作した」とは何を意味するかが重要となります。例えば、大企業が提示した事項が「工場の生産効率を向上させたい」といった一般的な技術課題にとどまり、その解決手段をスタートアップが創作したのであれば、スタートアップの単独発明となる可能性が高いと考えられます。他方、大企業が発明の本質的部分となる技術的解決手段の創作にも関与した場合には、共同発明となる可能性があります。
4 特許明細書作成上の留意点
もっとも、契約条項を整備しただけでは十分ではありません。後日紛争となれば、誰が技術的解決手段を創作したのかを裏付ける資料が問題となります。
その点で、特許明細書の作成は重要です。
例えば、(Y社から提示された)課題を新規な課題かのように記載したり、過度に強調したりすると、相手方に創作への関与を主張される契機となり得ます。
もちろん、課題を記載すること自体は必要ですが、工場の生産効率向上などの一般的な課題は、それ自体が発明の創作的部分ではありません。そこで、明細書では、課題よりも、スタートアップが創作した具体的な構成、アルゴリズム、制御方法及び技術的効果を中心に記載することが重要です。また、発明提案書や実験記録等の創作経緯も、後日の重要な証拠となります。
5 小括(契約と特許出願を一体で設計する)
POC成果の帰属を確保するためには、契約と特許出願を別々に考えてはなりません。
契約上、「創作者に帰属する」と整理した以上、その内容と整合するよう、POCの実施過程では創作経緯を記録し、特許明細書ではスタートアップが創作した技術的解決手段を的確に記載することが重要です。
契約書は権利の帰属を定める文書であり、特許明細書は技術内容を開示する文書ですが、POCでは、いずれも「誰が何を創作したのか」という同じ事実を異なる角度から表現しています。両者を一体として設計することが、スタートアップが自ら創出した技術を適切に保護するための重要なポイントといえるでしょう。
以 上
※「THE INDEPENDENTS」2026年8月号 P.11より
※掲載時点での情報です

弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏
2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。
【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】http://www.uslf.jp/
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T E L:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士34名・スタッフ16名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務