<起業家インタビュー>

■ 種子島から届ける究極の赤身和牛「梶屋牛」

 株式会社mulberryは、鹿児島県・種子島を拠点とする畜産スタートアップです。「梶屋牛(かじやぎゅう)」というブランドで、黒毛和牛の生産から加工、販売までを一気通貫で手がけています。

 私たちの事業の核は、種子島の自然環境を最大限に活かした「循環型畜産」です。日本一早い新茶や安納芋の産地として知られるこの島は、豊かな日照と降雨に恵まれ、非常に高い牧草生産ポテンシャルを持ちます。

 現在、当社は約20ヘクタールを超える牧草地を運営。さらに、島の基幹産業であるサトウキビの副産物を活用し、搾りかす(バガス)を牛舎の敷料に、葉や穂(セビ)を天然飼料として再利用しています。自社の天然牧草に加えて、ビール粕と組み合わせた天然飼料により、、低コストかつ持続可能な畜産モデルを確立しました。 

 この環境で育つ「梶屋牛」は、従来の霜降り和牛とは異なり、香り高く旨みの強い赤身が特徴です。脂は軽やかで、口の中で自然に溶け、後味が非常にすっきりしています。

梶屋牛ロゴ mulberry 種子島の牛舎と牧草地

 

■ 原点は「島の農家の息子」──梶屋氏のバックグラウンド

 代表の梶屋氏は、種子島で代々続く繁殖農家に生まれました。幼少期から牛とともに育ち、命と向き合う日常が当たり前の環境で育っています。

 一度は島を離れ、東京でキャリアを築き、ビジネスの現場で経験を積むと同時に、社会人教育機関であるグロービス経営大学院において講師としても活動。経営やリーダーシップに関する知見を深めてきました。

 しかし帰省のたびに目にしたのは、シャッター街化が進み、担い手を失っていく地域の姿でした。「このままでは、島の産業も誇りも失われてしまう」──その危機感が、彼を再び種子島へと引き戻します。

 帰郷後、家業を継ぐ中で彼が抱いた最大の違和感は、出産を終えた母牛(経産牛)の扱いでした。

■ 「廃牛」という常識への疑問

  日本の畜産では、8〜9回出産した母牛は「廃牛」とされ、安価れるのが一般的です。しかし、優れた子牛を産み続けてきた母牛こそ、本来最も感謝すべき、価値ある存在ではないか。

 「命を繋いできた母牛に、正当な価値を与えたい」

 この想いから、梶屋氏は世界的ブランド牛「尾崎牛」を手がける尾崎宗春氏の指導のもとで経産牛の再肥育事業に挑みました。

 帰郷後は、繁殖から肥育まで一貫して行うモデルへと転換。愛情を注いで育てた母牛を、自らの手で再肥育しブランド化するという、新たな価値創出に挑戦しています。
梶屋牛

■ 命と共に生きる畜産へ

 mulberryの牛舎は、毎日ほうきで掃き清められ、匂いがほとんどしないほど清潔に保たれています。県の畜産衛生コンクールで最優秀賞を受賞するなど、その管理水準は極めて高い評価を得ています。

梶屋牛牛舎の清掃   梶屋牛の清潔な牛舎


 牛は「商品」ではなく「家族」。一頭一頭に名前をつけ、語りかけ、日々の体調変化に向き合いながら育てる。その思想は、牛耕の時代から続く「牛と共に生きる暮らし」を現代に再定義するものでもあります。
 こうして生まれる「梶屋牛」は、グラスフェッドの健やかさと和牛本来の旨みを兼ね備えた、唯一無二の存在です。
梶屋牛の飼育

■ 世界が評価する「ちょうどいい赤身」

 この挑戦はすでに国内外で高い評価を受けています。シンガポールでの催事では、試食したシェフが感激し、翌日には一頭買いの契約成立となりました。霜降りでも輸入赤身でもない「ちょうどいい赤身」という独自のポジションが、世界の料理人たちの心を掴んでいます。

 現在は、都内の高級レストランやミシュラン星獲得店、さらにアメリカ・香港・台湾など海外市場からの引き合いも増加。特に薪焼きや炭火料理のシェフから高い支持を得ています。

梶屋牛赤身   梶屋牛赤身

 

■ 地域と産業を再生する「循環モデル」

 現在、年間約50頭の出荷規模を100頭へと拡大予定です。目指しているのは単なる事業成長ではありません。耕作放棄地を牧草地として再生し、サトウキビ産業と畜産を結びつけることで、地域全体で資源が循環するモデルの確立です。これは、後継者不足や収益性低下に苦しむ繁殖農家の課題を解決する、新しい畜産の形でもあります。

■ 「命のバトン」を世界へ

 私たちは「梶屋牛」というブランドを通じて、単なる畜産事業ではなく、高付加価値な食のラグジュアリーブランドとしてのポジション確立を目指しています。そのため、事業の成長戦略は単純な頭数拡大ではなく、ブランド価値と収益性を最大化することにあります。

 将来的にはIPOも視野に入れていますが、その姿は「大量生産型の畜産企業」ではありません。むしろ、高収益・高付加価値モデルを確立した“農業×ブランド企業” であり、世界市場で評価される日本発の食のプレミアムブランド として、持続可能な成長と高い資本効率を両立する上場を目指しています。

 「命のバトン」という思想を、経済合理性と両立させる。
 それが、私たちの描く新しい畜産スタートアップのかたちです。

写真中央 mulberry 梶谷 拓朗 氏
interviewed by kips 2026.3.30




【株式会社mulberry】
設 立:2021年9月28日
所在地:鹿児島県熊毛郡中種子町野間3005番地
資本金:303,628千円(株主:梶屋拓朗、VCほか)
代表者:梶屋拓朗
事業内容:黒毛和牛の生産・加工・販売(生産~販売の一貫モデル)
従業員:5名

株式会社mulberry 代表取締役 梶屋 拓朗 氏

 

【代表者略歴】

株式会社mulberry
代表取締役
梶屋 拓朗 氏 Kajiya Takuro

 
生年月日:1981年3月27日
出身高校:鹿児島県錦江湾高校理数科
東京外国語大学英語学科中退
慶應義塾大学総合政策学部卒業
グロービス経営大学院経営学修士卒業
日本GE、グロービス経営大学院仙台校責任者を経て、現職。


※「THE INDEPENDENTS」2026年5月号 - P.2-3より