<イベントレポート>
2025年11月10日 富山インデペンデンツ
@ 富山県民会館
+ Zoom ウェビナー配信
■ イベント詳細 https://www.independents.jp/event/779
<特別セッション> |
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| (モデレーター) 神戸大学 教授 /富山県成長戦略スタートアップ委員 /とやまスタートアッププログラム in 東京 監修 熊野 正樹 氏 |
(パネリスト) 北陸銀行 執行役員 /ほくほくコンサルティング 代表取締役 山口 新太郎 氏 |
就活ラジオ 代表取締役 /T-STARTUP選出起業家 碓井 一平 氏 |
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1. 登壇者紹介と富山との関わり
本セッションのモデレーターを務めたのは、神戸大学教授であり、富山県成長戦略スタートアップ委員や「とやまスタートアッププログラム in 東京」監修を務める 熊野 正樹 氏です。
熊野氏は、神戸大学アントレプレナーシップセンター長として、学生・研究者を対象とした起業家教育や支援を行っています。また学生の部活動である「起業部」顧問も務めています。熊野氏は大学卒業後に北陸銀行へ入行しており、本日パネリストの山口氏とは京都支店での同僚(先輩・後輩)の関係にあたります。富山県との関わりは7年前からで、「とやまスタートアッププログラム in 東京」の監修者として活動しており、碓井氏は同プログラムの2期生・6期生にあたります。これまで約10年間の起業家教育・支援を通じ、受講者は約1000名、起業数は35社、資金調達額は累計28億円に達しています。
続いて、パネリストの山口新太郎 氏(北陸銀行・北海道銀行 執行役員/ほくほくコンサルティング代表取締役)は、富山県のスタートアッププログラムを初回から支援してきた立場として登壇しました。現在は法人部門全体を統括し、その中にスタートアップ支援も含まれています。
もう一名のパネリストである 碓井一平 氏(就活ラジオ代表取締役)は、もともと富山県内の測量コンサル会社の3代目代表を務めていましたが辞任し、大学生との出会いを機に就活支援事業を立ち上げました。起業当初から熊野氏のプログラムに参加し、スタートアップとしての考え方や事業の磨き方を学んだと語っています。

2. 富山の現状と課題
熊野氏は、富山県が新田知事の就任以降「スタートアップ戦略」を成長戦略の柱として掲げてきた点、国全体としても2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ支援が加速している点を紹介し、この5〜6年で富山のエコシステムが大きく進展していると述べました。
これに対して山口氏は、富山の課題として、「人口減少」「高齢化」「若い女性の流出」を挙げました。自身の娘二人も県外で就職・進学しており、地域として大きな構造的課題であると指摘しました。
一方、碓井氏は起業家としての視点から「人材獲得」の難しさを強調しました。資金調達面は富山の金融機関・企業の支援により比較的困らなかった一方で、スタートアップ特有の負荷環境でも成果を出せる営業人材が極めて不足していると述べています。デザイナー志望やエンジニア志望の学生はいるものの、営業志望は全国的に見ても少なく、富山でも例外ではないと語りました。
写真:神戸大学教授・富山県成長戦略スタートアップ委員
・「とやまスタートアッププログラム in 東京」監修 熊野 正樹 氏
3. 金融・支援機関の役割と起業家支援
7年前、熊野氏が富山でスタートアップ支援を始めた当時、県内ではスタートアップは「都市伝説」のような扱いで、起業家の数が圧倒的に不足していたと振り返りました。山口氏に北陸銀行として協力を依頼する際も、当時は社内調整が非常に困難であったと紹介しています。
山口氏は、数年後の2022年10月にスタートアップチームと 10億円ファンドを設立し、その後は外部採用も進めつつ、現在までに 17社(北陸3県4社、東京10社など)に投資を実行した実績を説明しました。今後はさらに規模を拡大したファンドを計画していると述べ、北陸・北海道両地域とのシナジーや地域中核性を重視した投資を進めていると話しました。
また熊野氏は、スタートアップ支援の基盤は整ってきた一方で、最大の課題は依然として 起業家の数の不足にあると強調しました。また、アントレプレナーシップ教育の必要性も指摘しています。
碓井氏は、富山での 資金調達のしやすさ は全国に誇れる強みだと述べつつ、起業家が地元大企業の社長に直接会うことが難しい点を課題として挙げ、「ダイレクトにトップとつながれる仕組み」が必要だと話しました。
写真:北陸銀行 執行役員/ほくほくコンサルティング 代表取締役 山口 新太郎 氏
4. 富山発スタートアップの可能性と強み
山口氏は、富山の強みは課題の裏返しでもあるとし、
・医薬品・ヘルスケア・ものづくり産業の集積
・富山大学をはじめとする高等教育機関
・コンパクトシティとしてのアクセスの良さ(東京から2時間強)
といった既存アセットとスタートアップを連携させることが鍵であると述べました。
熊野氏は、東京で監修するプログラムでも「完全移住はハードルだが、二拠点生活ならしたい」という応募者が多いこと、今年から「関係人口型スタートアップ」を打ち出したところ応募が定員の3倍になったことを紹介し、富山への潜在ニーズの大きさを指摘しました。
山口氏は、最近の学生は「お金儲けより社会課題の解決」に関心が高く、国が推進する「ローカルゼブラ」の方向性とも親和性が高いと説明しました。富山には、医薬品産業と医学部の連携など、社会課題解決型スタートアップが生まれる土壌が十分にあると述べました。
碓井氏は、富山の最大の強みとして改めて 資金調達のしやすさ を強調しましたが、一方で企業トップへ直接アクセスできる環境整備の必要性を再度述べています。
写真:就活ラジオ 代表取締役/T-STARTUP選出起業家 碓井 一平 氏
5. 今後の展望:エコシステム醸成に向けて
熊野氏は、福岡での経験として、金融機関や大企業のスタートアップの担当者が定期的にinformal な飲み会を開いていたことをあげ、儀式ではなく「人間同士がゆるくつながる」関係性がエコシステム形成に重要であると語りました。
山口氏は、金融機関としても従来の価値観に依存していては立ち行かなくなると述べ、例えば富山名物のます寿司が担い手不足で存続の危機にある点を挙げながら、瞬間冷凍などスタートアップ技術を掛け合わせれば新産業が生まれる可能性があると話しました。こうしたカジュアルな議論を行える場を作ることが自分たちの役割だと強調しました。
最後に碓井氏は、ネットでは伝わらない「熱量」をシェアする場が富山にはまだ不足していると述べ、東京に人やお金が集まる背景には、熱量あるコミュニティの存在が大きいと指摘しました。富山でもそうした場づくりが進むことを期待すると締めくくりました。

※「THE INDEPENDENTS」2025年12月号 P.8 より
※ イベント開催時点での情報です


