<イベントレポート>
2025年8月22日 京都インデペンデンツ
@ 京都リサーチパーク
+ Zoom ウェビナー配信
■ イベント詳細 https://www.independents.jp/event/771
<特別セッション> |
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(パネリスト)![]() |
京都大学イノベーションキャピタル株式会社 |
1989年 現(株)三井住友銀行入行。主として法人の資金調達を担当。各法人毎のニーズを分析し、社債、流動化、シンジケーション等を活用したソリューション提案型の業務を行う。 2007年から、現・SMBCベンチャーキャピタル(株)(旧・大和SMBCキャピタル(株))にて、Private Equity部門ヘッドとしてバイアウトファンドを運営。上場企業を含む複数の投資先企業の社外取締役、常勤顧問として経営に参画。 2013年4月から京都大学にて、大学発スタートアップ支援スキームの制度設計を行い、京都大学イノベーションキャピタル(株)設立を主導。 2014年12月(同社設立時)に執行役員投資部長、2020年4月に代表取締役社長に就任。 |
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インデペンデンツクラブ 松本 直人 氏 |
1980年3月23日生まれ。 2002年フューチャーベンチャーキャピタル(株)入社。 神戸事務所長、取締役西日本投資部長を経て、2016年1月同社代表取締役社長に就任。 2022年7月(株)ABAKAM設立、代表取締役就任(現任)。 2023年3月(株)Kips取締役就任(2024年8月退任)。 (株)神戸大学キャピタル取締役、(株)ココペリ社外取締役、(株)スマートバリュー社外取締役、(株)フィル・カンパニー社外取締役、(株)デジアラホールディングス社外取締役 兼任。 2024年9月インデペンデンツクラブ代表理事就任。 |
■ 官民イノベーションプログラムからの歩み
松本:本日は京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の楠美社長にお話を伺います。まずはご経歴と会社の概要を教えていただけますか。
楠美:私はもともと三井住友銀行出身で、2013年に始まった「官民イノベーションプログラム」の、京都大学における制度設計を行うため京都大学に出向しました。その後、2014年に京大iCAPを設立し、2020年から代表を務めています。
このプログラムは、大学の研究成果を社会に還元することを目的に、国が東京大学・京都大学・大阪大学・東北大学の4大学に出資金として合計1,000億円、大学別では東京大学に417億円、京都大学に292億円、大阪大学に166億円、東北大学に125億円を拠出しました。さらに出資金の実効性を高めるために東京大学に83億円、京都大学に58億円、大阪大学に34億円、東北大学に25億円の運営費交付金が割り振られました。
京都大学ではこの出資金(292億円)をもとに、2016年に160億円規模の1号ファンドを設立し、2021年には181億円規模の2号ファンドを設立しました。両ファンドを合わせた運用総額は341億円に上り、大学発スタートアップへの投資に特化したファンドとしては国内でも屈指の規模を誇ります。その規模に加え、投資期間を長く設定し、研究成果の社会実装を腰を据えて支援できる点が大きな特徴です。
松本:国内でも屈指の規模であり、長期的な視点で大学発スタートアップを支援できる基盤なのですね。

■ 投資実績と特徴
楠美:2025年8月時点で、京都iCAPの投資実績は累計72社、投資総額163億円となっています。投資ステージを見ると、シードが63%を占め、続いてアーリーが20%、ミドルが14%、レイターが3%と、非常に初期段階のスタートアップに注力しているのが特徴です。分野別では、バイオ・創薬が37%と最も多く、次いで機械・素材・エネルギーが25%、ヘルスケア・デバイスが14%、IoTやAIが13%、フードやアグリ分野が11%を占めています。
リード・非リードの割合は、リード投資が60%、共同リードが11%を占めており、リードインベスターとして支援している先の割合が非常に高くなっています。また、官民ファンドとして、民間VC等と積極的に協調投資の機会を探っており、今までの実績では、iCAPからの投資1に対して、民間VC等からの協調投資2程度の割合(同一ラウンドにおいて、iCAP投資額の2倍程度の民間リスクマネー誘因)になっております。国の資金を背景にしつつも、民間VCの投資機会を奪うことなく、不足部分を補完する形で関わる姿勢を大切にしています。
■ 起業家支援と民間VCとの補完関係
松本:京都iCAPの支援の特徴についてもう少し伺えますか。
楠美:私たちは「大学の研究者とゼロから会社をつくる」という取り組みに力を入れています。その中核となる仕組みがECC-iCAPとEIR-iCAPです。ECCは起業に関心を持つ研究者や社会人のコミュニティで、現在の会員数は600名を超え、ここからすでに多数のスタートアップが誕生しています。一方のEIRは、経験豊富な起業家候補を京都iCAPに迎え、“京都iCAP社員”として研究者と組んで事業化を進めるプログラムです。大まかに言うと、ECCはentrepreneurの裾野を拡げること、EIRは起業の質と成功確率の向上を目的としており、2つの異なるプログラムを運用することで、起業に不可欠な経営人材の教育・確保を目指しております。
■ 国際展開とExit戦略
松本:今後の展望についてお聞かせください。
楠美:京大の強みであるライフサイエンスを軸にしつつ、AI、Climate Techやロボティクスなど非ライフ系分野への投資にも注力していきたいと考えています。京大には4,000人以上の研究者がおり、日々新しいシーズが生まれていますので、新たなスタートアップを創出するベースは常にあります。
また、国際展開にも力を入れています。京大はシンガポールやニューヨークに拠点を設け、スタートアップの世界展開を支援する活動を始めています。全国の大学および大学VCとも連携し、国際イベントに共同で参加する取り組みも広がっています。「京大発」にとどまらず、「日本の大学発」として世界に挑むことが重要だと考えています。
Exit戦略も従来のIPO中心から、近年はM&Aによる売却も積極的に視野に入れています。特に創薬分野は海外企業によるM&Aも活発で、適切な評価を得やすい分野だと考えています。今後は国内外の企業との提携や売却を通じ、研究成果をより早く社会に届ける道筋を強化していきたいと考えています。
松本:研究成果を社会に活かす仕組みが、いよいよ国際的かつ多様な形で広がっていくわけですね。本日はありがとうございました。
※「THE INDEPENDENTS」2025年10月号 P.4-5 より
※ イベント開催時点での情報です