<特別インタビュー>
2025年6月3日、知財AIスタートアップの株式会社AI Samurai(以下、AIS社)は、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社(TTDC)による全株式取得を受け、トヨタグループの一員として新たな一歩を踏み出しました。その決断の裏にあった経営判断、M&A交渉のリアル、そして次なる事業構想までを白坂社長に伺いました。
■ 「IPOではなくM&A」その意思決定の背景
國本:AIS社はIPOを前提にVCから累計10億円の資金調達を行ってきました。今回、M&AによるEXITを決断した理由を教えてください。
白坂:実は資金調達後、数年赤字状態が続き、ギリギリの資金繰りを経験しました。今年に入りようやく黒字化が見えた段階で、IPOとM&Aの両方を冷静に比較できるようになりました。IPOだと時間もかかるし、フォンド満期を迎えるVCの出口戦略も考慮する必要がありました。最終的に選んだのは、知財実務の現場で即戦力となるAIを、トヨタグループという巨大プラットフォームに実装できるという“未来への確実性”です。
國本:M&Aの打診は複数のプレイヤーからありましたが、最も高いシナジーを感じたのがTTDC社という事ですね。
白坂:価格の交渉も大事ですが、最終的には「誰と組むか」。私を含めた経営陣は引き続き経営を担っていきます。
國本:多くのVC株主の賛同を得るのは大変だったと思います。
白坂:もともと毎月欠かさず取締役会で経営状況を報告しており、今回の交渉過程もタイムリーに報告していたので理解は早くいただけました。
國本:バリュエーションは売上規模に対して数倍と高く評価されましたね。
白坂:「価格よりもシナジー」を軸に、独自のAIアルゴリズム、SaaSとしての成長性、30件以上の特許ポートフォリオなどを定量的に提示しました。最終的には、事業の未来に納得いただけたことで合意に至ったと考えています。
國本:M&Aの実行面でも自社チームを中心に短期間でまとめらました。
白坂:領域の特殊性を考えると、直接交渉の方が早く的確に伝わると感じました。自らM&AのYouTubeなどをみて先行事例を調査し、Chat GPTに何度も相談をしました。必要な局面だけ専門家にスポットで相談する“スケルトン方式”を採用しました。今は情報があふれていますから、むしろ信頼できる人に正しくアクセスすることが重要です。インデペンデンツクラブでお世話になっている、内田・鮫島法律事務所の高橋正憲弁護士に本ディールをまとめていただき、感謝しております。
■ M&Aの先に描く、「知財ソリューションの未来」
白坂:当社のAI特許調査技術は、TTDC社が展開する知財支援プラットフォーム「swimy」との連携により、知財業務の大幅な効率化を見込んでいます。
國本:具体的には、どのような形で技術連携が進んでいくのでしょうか?
白坂:「AI Samurai ONE」をトヨタグループの特許調査現場に横展開できればとおもっています。今後は多言語AIモデルや図面解釈・クレーム補正支援機能も統合し、グローバル対応を視野に入れています。私たちにとって、M&Aはゴールではありません。むしろ“第二の創業”だと思っています。
■ 発明者のためのAIから、「次世代教育支援へ」
國本:白坂さん個人としては教育分野に力を入れていますね。
白坂:はい。神奈川県・平塚中等高等教育学校と連携し、高校生のアントレプレナー育成を始めます。AI Samuraiの技術を使ってビジネスアイデアの先行特許を判定し、事業性を検証し、クラウドファンディングで資金を集める――そんな“実践型育成”を目指しています。
國本:知財と教育の融合ですか。
白坂:子どもの発明支援は、私個人のライフワークでもあります。将来の起業家を育てる仕組み作りにも取り組みたいですね。
interviewed by kips 2025.6.3
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【代表者略歴】 株式会社AI Samurai
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