アイキャッチ

「AI関連発明の権利行使時の留意点 (1)」

1 はじめに

 前回までのコラムでは、AI関連発明の出願時の留意点を述べてきました。今回からは、AI関連発明の権利行使時の留意点について、述べていくことにします。
 

2 設例(以下で規定される特許発明にかかる権利行使について、どのような点に留意すればよいでしょうか。)

 請求項の記載に「機械学習を利用して生成されたアルゴリズムを適用して、入力された取引内容に対応する勘定科目を推測する」と規定されている特許発明があった場合、特許発明を実施していると疑われる製品が存在するときに、特許侵害を立証するには、どのような点に留意すればよいでしょうか。
 

3 参考になる裁判例

 東京地裁平成29年7月27日(フリー社vsマネーフォワード社事件)では、特許侵害訴訟において、被告が自身の製品態様について、これまでのサービスの提供を通じて自らが保有する実際の仕訳情報の中から抽出した膨大なデータを、学習データとして利用することで、新たな取引きについても、より高い確率で適切な勘定科目に仕訳することができるようなアルゴリズム(機械学習を利用して生成されたアルゴリズム)を用いている旨を主張し(※1)、裁判所がこれを認定したので、本設例にも参考となります(※2)

 以下、裁判所の判示を引用します。

  原告による被告方法の実施結果は,別紙「原告による被告方法の実施結果」記載のとおりであり,被告による被告方法の実施結果は,別紙「被告による被告方法の実施結果」記載のとおりである。

 上記2つの実施結果は,両立しうるものというべきであり,また,それぞれの信用性を疑わせるような事情は特に認められないところ,後者の実施結果によれば,次の事実が認められる。すなわち,入力例①及び②によれば,摘要に含まれる複数の語をそれぞれ入力して出力される勘定科目の各推定結果と,これらの複数の語を適宜組み合わせた複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果をそれぞれ得たところ,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が,上記組み合わせ前の語を入力した場合に出力される勘定科目の各推定結果のいずれとも合致しない例(本取引⑥⑦⑭)が存在することが認められる。

 例えば,本取引⑦において,「商品店舗チケット」の入力に対し勘定科目の推定結果として「仕入高」が出力されているが,「商品店舗チケット」を構成する「商品」,「店舗」及び「チケット」の各単語を入力した場合の出力である「備品・消耗品費」,「福利厚生費」及び「短期借入金」(本取引①ないし③)のいずれとも合致しない。また,入力例③及び④によれば,摘要の入力が同一であっても,出金額やサービスカテゴリーを変更すると,異なる勘定科目の推定結果が出力される例(本取引⑮ないし⑱)が存在することが認められる。さらに,入力例⑤及び⑥によれば,「鴻働葡賃」というような通常の日本語には存在しない語を入力した場合であっても,何らかの勘定科目の推定結果が出力されていること(本取引⑲ないし㉒)が認められる。

 以上のような被告による被告方法の実施結果によれば,原告による被告方法の実施結果を十分考慮しても,被告方法が上記アのとおりの本件発明13における「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,キーワードの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つを選び出し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて 対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照することにより,特定の勘定科目を選択する」という構成を採用しているとは認めるに足りず,かえって,被告が主張するように,いわゆる機械学習を利用して生成されたアルゴリズムを適用して,入力された取引内容に対応する勘定科目を推測していることが窺われる。なぜならば,被告方法において,仮に,取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表データ)を参照しているのであれば,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が組み合わせ前の語による推定結果のいずれとも合致しないことや,摘要の入力が同一なのに出金額やサービスカテゴリーを変更すると異なる勘定科目の推定結果が出力されることが生じるとは考えにくいし,通常の日本語には存在しない語をキーワードとする対応テーブル(対応表のデータ)が予め作成されているとは考えにくいからそのような語に対して何らかの勘定科目の推定結果が出力されることも不合理だからである。

 

4 上記裁判例から学ぶべきこと

 実際の裁判では、原告が被告製品の挙動を立証する必要があります。この点は、AI関連発明の場合でも通常の裁判と変わりません。そうすると、被告製品が、機械学習を利用して生成したアルゴリズムを利用している点も原告が立証しなければなりませんが、通常は、被告製品のソースコード等を入手することができませんので、この立証は難しいものになりがちです。
 この点について、上記裁判例では、たとえば、「鴻働葡賃」というような通常の日本語には存在しない語を入力した場合であっても、何らかの勘定科目の推定結果が出力されるなど、システムに特定の用語を入力することで、出力される結果を示すことにより、同システムが、機械学習を利用して生成したアルゴリズムを適用して、勘定科目が推定、出力されていると認定されています。
 この裁判例を前提とすると、システムに対する入出力関係を示すことで、機械学習を利用して生成したアルゴリズムを利用している点を立証できる可能性が示唆されており、実務でも参考になります。
 

<注釈>

(※1) 原告は、被告製品は、入力された語に対し、優先順位の最も高いキーワードを選定し、選定されたキーワードを、取引内容に含まれるキーワードに対応する勘定科目を1対1で対応づけた対応テーブルと照合して、特定の勘定科目を選択すると主張しました。

(※2) ただし、本設例は、原告が被告製品の態様を自らの調査・分析により、立証しなければならない点が、上記裁判例とは異なる点には留意が必要です。
 
 
以上
 
※「THE INDEPENDENTS」2024年11月号 P.13より
※掲載時点での情報です
 

 
  弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士34名・スタッフ16名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務

http://www.uslf.jp/