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「北九州におけるスタートアップ支援」

 <イベントレポート>

2024年3月29日 北九州インデペンデンツクラブ
@ COMPASS小倉
+ Zoom ウェビナー配信

■ イベント詳細 https://www.independents.jp/event/718

 

■特別セッション:パネラー

     
鎌田  靖雄 氏

北九州市産業経済局
地域経済振興部
スタートアップ推進課長
  大庭 英樹 氏

九州工業大学
先端研究・社会連携本部
産学イノベーションセンター
  上條 由紀子 氏

九州工業大学
先端研究・社会連携本部
産学イノベーションセンター
  <モデレーター>
照沼 大 氏

日本ベンチャーキャピタル
シニア・パートナー 
 
 
■特別セッション レポート

照沼:本日は北九州市におけるスタートアップ支援について、北九州市産業経済局スタートアップ推進課の鎌田様と、九州工業大学産学イノベーションセンターの大庭様、特任教授でアントレプレナーシップ教育を担当している上條様にお越しいただき議論したいと思います。よろしくお願いします。

まず、北九州市は2020年7月に内閣府から「スタートアップ・エコシステム推進拠点都市」に選定されましたが、その時点から現在までの3年間を振り返るとどうですか。

鎌田:以前からもベンチャー支援は行っていたのですが、そこからプログラムを一新して市の強みである「環境・ロボット」の分野やDX分野を中心にテック系エコシステム拠点都市を形成してきました。特に昨年新しく就任された武内市長は産業経済局だけでなく市全体でスタートアップとの掛け合わせを意識した課題解決を図っています。成果としては、スタートアップの機運の高まりや数の増加、若者の関心の高まりというのを非常に感じています。また、実際に73社のスタートアップが北九州市から誕生しています。

照沼:次に九州工業大学ではスタートアップ支援としてどのような取り組みをされていますか。

大庭:2020年からスタートアップへの取り組みはあったのですが、そこから九州・沖縄圏一体となったスタートアップ・エコシステムの創出を目指した「PARKS」を設立しました。これは、九州・沖縄の18大学と1機関で連携し、起業活動支援プログラムの運営やアントレプレナーシップ教育、起業環境の整備、拠点都市のエコシステム形成・発展を行っています。研究機関としての大学にある技術シーズを事業化することを目的としています。現在この取り組みは2年目で、出口としては5年後に155社のスタートアップ創出を考えています。

照沼:一方で九州工業大学ではアントレプレナーシップ教育にも取り組んでいます。昨今、起業に対する技術やノウハウなどが流布している中である程度土台ができているように感じるのですが、大学でどのような教育をしているのか、また学生からはどのような反応があるかについて教えてください。

上條:昨年度から大学院向けのアントレ教育をスタートしており、ビジネスモデル・プランのノウハウ演習やデザイン思考を使った演習などを行っています。技術系の学生が熱心に講義を受講しており、学生のうちから起業を志向している方もいます。学内でのビジネスコンテストも実施しており、そこで優勝・準優勝したチームが九州や全国のコンテストにも出場しています。このように非常に学生のスタートアップへの機運が高まっていることを感じます。

大庭:加えて、教職員の中でも起業マインドを持つ方を発掘しています。そのため教員も含めて大学全体としてスタートアップへの機運は高まっていますが、一方でそれを伴走支援する人材が不足するという嬉しい悲鳴が上がっています。

鎌田:行政としてはアントレ教育を大学から始めるのではなく、小・中・高から始めるべきだと考えています。そのため、小中学生に対して学校の授業の一環としてアントレ教育のプログラムを実施しています。

 

照沼:北九州市でスタートアップの成長支援として行っているスタートアップSDGsイノベーショントライアル事業(SIT-K)について、どのような内容の取り組みか、また取り組みの目指すものを教えてください。

鎌田:SIT-Kの全体像としては資金支援と伴走支援を行っています。まず、実証支援事業として全国から募集のあったスタートアップと連携して、北九州市をフィールドに市の課題解決を行い、そこに対して資金支援・伴走支援を行います。次に、事業化支援事業として北九州市の認定VC26社と連携して、スタートアップの販路拡大や研究開発を支援するため、地元企業や大学とのマッチングを行ったりしています。まだ始まったばかりですが、IPOを目指したいという企業を創出することや北九州市の課題解決の取り組みを全国のモデルとすることがこの事業のゴールだと考えています。

 

大庭:大学はあくまでスタートアップの創出段階を支援する立場です。そういった意味でその企業を育てていける環境づくりを行政には期待しています。また、大企業と九工大発ベンチャーとのオープンイノベーションを起こすようなスタートアップの創出を目指していきたいと考えています。

上條:教育の観点では、人材育成は時間がかかるので、学生にはアントレ教育を土台とすることで将来専門性を身につけた際に起業するという選択肢を持って欲しいと考えています。それが将来北九州の課題解決に繋がっていきます。

 

照沼:グローバル化という観点で、日本企業はIPOの段階で海外売り上げ比率が低いことが多いのですが、北九州はテック系の企業が多く国際性を持つ企業が多くあります。そこのグローバル化に対してどのような取り組みを行っていますか。

鎌田:北九州市としてはJETROと連携して海外スタートアップを北九州市に誘致しています。シンガポール発のスタートアップを支援プログラムで採択し、北九州市内での実証実験をサポートしています。市としてはシンガポールをターゲットにしていますが、各スタートアップがそれぞれターゲットとする海外市場をリサーチした上でその地域との連携支援を考える必要があります。

上條:大学は一つの役割として人を育てる場です。その点で留学生との連携を深める必要があると考えています。九工大で勉強した留学生が母国で活躍することで、引き続き社会実装の点で海外市場との橋渡しとなります。また、PARKSで創出されるスタートアップも留学生と研究室がチームを組むことでのグローバル化を考えていくべきです。

 

※「THE INDEPENDENTS」2024年5月号 P.6-7より
※ 冊子掲載時点での情報です