＜起業家インタビュー＞

「聴診DXで心疾患による突然死を減らす」

■私達は聴診DXに取り組んでいる九州のスタートアップです

聴診という診療行為は2000年以上前のヒポクラテスの頃から存在し、200年前にはフランスの医師により「聴診器」という医療機器になったと言われています。現在も医療現場で使われていますが、医師という個人の耳に頼っているという点で大きな変化がないということが課題でした。そこで私たちは、テクノロジーにより「聴診」を再定義することにしました。聴診をデジタル化するだけでなく、日常診療・臨床研究・医学教育・遠隔医療などに利活用して医療現場に新たな価値を提供する「聴診DX」に取り組んでいます。

■2022年末に当社の1stプロダクトが薬事承認を取得しました

「聴診」に関連する医療現場の課題を解決するために2015年に開発をスタートさせました。そして、2022年末に当社の1stプロダクトが薬事承認を取得しました。


特徴は大きく３つです。１つ目は、研究開発時に一番こだわったポイントですが、生体音を人間の可聴周波数帯域の下限20Hzまで正確に取得・保存できることです。２つ目は、心音と心電を同期して取得・保存ができることです。そして３つ目は、心音と心電を信号処理技術で可視化できることです。これらの特徴は既存の電子聴診器の認証基準では満たせないため、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の審査を通過して厚生労働省から薬事承認してもらうという道を選びました。

■「クラウド総合病院構想」で遠隔医療実現も目指しています

私達は2018年から熊本県水俣市や鹿児島県鹿児島市で遠隔医療の実証事業をしています。そこでは私達のプロダクトはもちろんのこと、現場の声を聞きながら進めています。自社製品のみならず様々なメディカルデバイスを連携させることで、必要な時にいつでもどこでもクラウド上で専門の医師とつなぎ、さらに質の高い遠隔医療を実現したいと考えています。

■研究開発型ベンチャーとして知財戦略にも力を入れてきました

超聴診器事業に関連する特許を国内で6件、米国で1件取得しています。現在は人の耳では聞こえない(非可聴周波数帯)心音まで含めて解析し、大動脈弁狭窄症の可能性やその重症度を予測するための独自の深層学習モデルを開発しています。これまでに20施設の医療機関と共同で、3000症例12,000データの心音に、各種検査結果や心臓の特徴など150項目以上を紐づけた医療データベースを完成させました。

■将来は北米市場もターゲットにしています

私達のプロダクトの競合環境についてですが、現状ではコンセプトが類似する機器は現時点ではありません。一方で、海外では競合となり得るデバイスもいくつか登場してきています。差別化ポイントとしては取得周波数の広さや信号処理の技術があるため、十分展開可能と考えています。具体的な取り組みとしては、北米三菱商事とFogarty Innovationによるアクセラレータートライアルに日本から唯一選出されました。質の高いデータを蓄積しＡＩ精度を向上させ、北米市場への進出戦略を果たすべく準備を進めています。

■循環器内科医として勤務しながら起業しました

私は臨床現場で働いている時に、自覚症状がないうちから早期発見して救える命がたくさんあると考えていました。さらに、2016年の熊本地震で医療ボランティアとして県内各地をドクターカーで回り、遠隔医療や災害地診療の重要性を痛感しました。これらの問題をAIやICTで解決できるのではないか、という想いから超聴診器の開発がスタートしました。最初は一人で工作のようなことをしていましたが、最初は熊本大学山川准教授が協力してくれて、少しずつ研究開発体制を構築して現在は38名のメンバーが集まりました。将来的には医療の質を今よりもさらに高め、誰もがどこにいても同じレベルの医療を受けられるのがあたりまえ、そんな世界を実現していきます。


interviewed by kips 2023.3

※「THE INDEPENDENTS」2023年4月号 - p4-5より