「リアルテックベンチャーの知財戦略と株式上場」
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<話し手>
<代表取締役社長CEO 吉野 巌 氏(右)>
生年月日:1967年7月19日
出身高校:慶應義塾高校
1990年慶応義塾大学法学部卒業後、三井物産(株)入社。2002年UCバークレーMBA取得。2007年当社設立、代表取締役就任。2022年6月東京証券取引所グロース市場上場(9227)
【マイクロ波化学株式会社】
【設 立】2007年8月15日
【所在地】大阪府吹田市山田丘2-1
【事業内容】マイクロ波化学プロセスの研究開発及びエンジニアリング
【業 績】売上高 860百万円/経常利益 △98百万円(2022年3月期)
【発表日】2015年12月7日@東京(第212回事業計画発表会)
【上場日】2022年6月24日(東京証券取引所グロース市場:9227)
<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(左)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。
鮫島正洋の知財インタビュー
リアルテックベンチャーの知財戦略と株式上場
鮫島:まずは上場おめでとうございます。2009年末に顧問契約をいただいた頃は、リアルテックという言葉もなかった時代でしたが、日本が技術立国を目指すのだとしたら、貴社のようなベンチャーが上場できない国であるべきではないと言い続けてきました。弊所の業態を象徴するシグネチャークライアントでもあり、悲願が叶って本当に嬉しく思っています。
吉野:鮫島先生からすぐに上場できるよとお墨付きをいただきながら、大変お待たせしてしまいました。創業当初はメーカーの立ち位置での展開を志向していましたが、技術プラットフォームとしてトータルソリューションを提供する会社になると決断した時、極めて重要であった基本特許の取得や共同研究の契約ひな形の作成を鮫島先生と杉尾先生にまさに二人三脚で支えていただきました。鮫島:化学業界は製造プロセスの技術流出を恐れて特許化しない傾向がありますが、シンプルながら検出可能性も担保した強力な基本特許が取得できたことは転換点でしたね。
吉野:共同創業者である塚原保徳(弊社取締役CSO)が知財に前向きであったことも大きかったと思います。反応機を横に組む「横型多段」式の特許で、外から見れば弊社技術であるとわかる”権利行使しやすい”ものでした。汎用性も高く事業拡張を妨げないと評価いただき、2011年1月にシリーズAでUTECから1.2億円の資金調達を実施することができました。鮫島:この基本特許成立以降、技術プラットフォーム会社としてのスタンスを徹底してこられました。具体的には、共同開発の成果知財を原則として貴社に帰属するという契約スキームであり、これによって更に高度で広範囲なソリューション提供につながる好循環な事業モデルを確立されています。
吉野:ケースに応じてではありますが、製品特許はお客様、装置・プロセス特許は弊社に帰属する契約ひな形を面談の最初に提示します。知財成果を共有する場合でも、契約時に定めた開発テーマ以外の用途であればお客様の承諾を得ることなく第三者に実施権を許諾できる内容です。これにより、国内約40件・海外約100件の特許ポートフォリオが構築でき、競争優位性の確保につながっています。鮫島:貴社のような、強気の知財ポリシーは相手方の共同開発に対する本気度を見極めるツールになる一方で、断られる案件もあったのではないでしょうか。それでも財閥系3社はじめ超一流企業と取引ができているのは特筆すべき点かと思います。
吉野:目前の取引が欲しくなった時もあります。ただ、将来の成長の芽を阻害してしまうような意思決定はしまいと耐えてきました。結果、弊社に重要な知財やノウハウが集積しお客様の課題解決に貢献でき、賛同してくれた皆様に報いることができていると自負しています。今では見込み顧客に対して9割の企業がこの契約スキームを受理してくださり、今年だけでも50数件のパイプラインが走っています。鮫島:最近ではカーボンニュートラルへの流れが貴社技術の採用にとって強い追い風となっています。リアルテックベンチャーにとって最大の壁は実績がない技術をどうやって採用していただくかですが、後進の起業家向けに経験談をお聞かせください。
吉野:ドラム缶サイズの反応機を作ってみせたことが大きかったと思います。研究者ばかりでプラントエンジニアもいない中、なりふり構わず資金も資材も集めて。これが現・大阪事業所に竣工した世界初のマイクロ波化学工場竣工(2014年)につながります。研究データやラボスケールのレベルでは大手企業の社内全体を説得することはできません。真正面から取組み、最後までやり切る覚悟が重要だと思います。近年の潮流であるカーボンニュートラルにおいては、この2年その変化を強く感じています。2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという国際的かつチャレンジングなゴールに対し、これまでの手法の改善を積み重ねるだけでは実現不可能です。大手企業上層部も新しい技術を試してみようという機運が高まっており、これを担うスタートアップにもチャンスが広がっているのではないでしょうか。鮫島:これから上場を目指すリアルテックベンチャーの起業家にとって励みになる話をありがとうございました。弊所としてもマイクロ波化学に続くベンチャーの知財戦略支援に力を尽くしていきます。
―「THE INDEPENDENTS」2022年10月号 P8より
※冊子掲載時点での情報です