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「東大医科研と共同研究 ドナーに優しい臍帯由来の再生医療製品の研究開発・製造」

公開

<話し手>
<代表取締役 原田 雅充 氏 略歴>
生年月日:1972年8月29日
出身高校:名古屋市立向陽高校
岐⾩⼤学⼤学院⽣物資源利⽤学(遺伝⼦⼯学)修了。旧通産省⼯業技術院⽣命⼯学⼯業技術研究所に出向し、血管の老化研究で農学修士取得。⽇本化薬(株)、アムジェン(株)、セルジーン(株)にて⾎液がん治療薬のメディカルアフェアーズ及び臨床開発統括に従事。
シンバイオ製薬(株)執行役員、営業・マーケティング本部長を経て2017年ヒューマンライフコード(株)を設⽴し代表取締役に就任。MBA。
元東京⼤学医科学研究所客員研究員。社団法人日米協会会員。


【ヒューマンライフコード株式会社】
【設 立】2017年4月5日 【所在地】東京都中央区日本橋堀留町1-9-10 【資本金】437,000千円 【事業内容】再生医療等製品の研究開発・製造・販売 【従業員】12名
<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

東大医科研と共同研究
ドナーに優しい臍帯由来の再生医療製品の
研究開発・製造


鮫島:臍帯由来間葉系細胞による医薬品の製品化に必要不可欠なマスターセル製造拠点を、東京大学医科学研究所(以下、「東大医科研」)内に建設されています

原田:東大医科研と共同研究契約を締結し、昨年の9月に東大医科研内にて細胞製造所(IMSUT-HLCセルプロセッシング施設)を設け、現在稼働しております。製剤原料である臍帯や培養した細胞は、マイナス150度以下の液体窒素が入った容器に入れれば輸送及び保存も可能です。備蓄可能な効率の良い製剤づくりができる体制が整いつつあります。

鮫島:凍結保存用溶液、凍結物、及び凍結保存方法に関する基本特許は東京大学が保有しています。

原田:当社は特定疾患に対する独占ライセンス契約を東京大学と結んでいます。「間葉系細胞を保存する溶液及び保存方法に関する特許」などについて、弊社が共同研究をすすめている東京大学医科学研究所の長村登紀子准教授(副病院長)が発明されています。その他、製造方法のノウハウを知的財産として有しています。

鮫島:貴社の再生医療製品はどのような疾患が対象でしょうか。薬事承認に向けた治験が進んでいると伺いました。

原田:炎症・免疫応答の不調和がもたらす疾患、難病や加齢性疾患を対象としています。政府助成金を得て、複数の臨床試験が進行しています。例えば急性移植片対宿主病(きゅうせいいしょくへんたいしゅくしゅびょう)という、造血幹細胞移植が行われた際、臓器提供者のリンパ球が患者の体を他人と考えて攻撃する疾患や、COVID-19に伴う急性呼吸窮迫症候群、移植後非感染性肺合併症です。
治験は、急性移植片対宿主病ではフェーズ1が昨年3月に完了。COVID-19に伴う急性呼吸窮迫症候群ではフェーズ1の登録が今年3月に完了し、移植後非感染性肺合併症に対しては今年の3月にフェーズ2が始まりました。この移植後非感染性肺合併症の臨床試験結果により、2024年条件付期限付承認を目指しています。また、加齢や疾患により筋肉量が減少するサルコペニアは動物実験段階を終了し、現在論文投稿中です。当社は、まず希少・難治性疾患を入り口として対象疾患を広げていきます。

原田:日本国内で製造準備をすすめる段階では、間葉系細胞の製剤化プロセスはあえて知財化せず、他社に製造委託する際に契約で用途制限をします。

鮫島:グローバルな医薬の世界において、特許をまったく取得せず、大きな製薬会社にライセンスすることが困難であることに鑑みると、用途特許は必須であると思いますが、用途特許をどこまで出すかというのは、資金の乏しいベンチャー企業には悩ましい問題です。


鮫島:ゆくゆくは海外展開も考えておられることと思います。アメリカなどいわゆるディスカバリー(証拠開示)制度を採用する国では、特許の被疑侵害者は、製造プロセスを含め非公開情報を裁判に提出する義務を負います。したがい、ノウハウ部分であっても特許侵害の立証ができることになりますので特許を出すという判断に支障はないし、これを躊躇していると、逆に、競合先に特許を取得されるリスクもあります。

原田:ご指摘をいただき、ありがとうございます。海外に進出する際には製造プロセスを含めた形で特許化する必要があると考えています。特許化に踏み切るタイミングの見極めが重要で、大きな経営判断になる、と覚悟しています。

原田:先生に質問があるのですが、昨今、細胞にまつわる特許が劇的に増えています。ベンチャーは人も資金も限られています。特許侵害予防調査(FTO調査)にあたり、すべてを網羅して調査するのは実際不可能です。ベンチャーの立場から見た効率的な調査方法はありますか。

鮫島:ベンチャーはスピードが命ですから、ありとあらゆる国・地域の特許を調査することには限界があります。そこで、特許や学会論文から特定された競合プレイヤーの特許のみを調べるという方法を採用せざるを得ません。投資家がFTOに関して質問するであろうポイントを予測し、仮説を立てて対応することによって、資本政策にも効いてきます。


鮫島:今後、再生医療を広く患者に届けていくためには、どういったことがポイントになると考えておられるでしょうか。

原田:製品品質の均一化と、効率のよい製造方法の確立によるコストダウンです。現行では1本の臍帯から約500人の患者を救うための製剤を作ることができてはいますが、より生産性を上げようとしています。コストを下げることで、患者にさらに再生医療製品を届きやすくします。  知財面でのハードルをクリアし、盤石な製造・供給体制をととのえ、海外を含めより多くの患者に製品を届けていきます。

対談後のコメント:

鮫島
臍帯由来間葉系細胞は、素材として、再生医療が有する諸課題を解決できる優位性を持っている。同社の競争力はノウハウに立脚する部分も多く、他社との差別化を知財権によって客観化することは容易ではないという課題がある中で、海外展開などの事業計画に応じ、タイミングを見計らいつつ知財化を行うことが肝要である。


原田
これまでの医薬品では救えなかった難治疾患から老齢疾患に至るまで、新たな治療の選択肢が必要な患者さんのために、この臍の緒の間葉系細胞を1日でも早く、そして世界に先駆けて製品化し、ヒューマンライフコードだからこそできる社会貢献を形にします。

(文責 大東理香)
―「THE INDEPENDENTS」2022年5月号 P18-19より

※冊子掲載時点での情報です