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「ウェブサイトへの掲載行為が信用毀損行為に該当すると判断された事例」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
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大阪地裁平成31年1月31日判決(平成29年(ワ)9834号)


1 事案 *1

 本件は、原告が、被告が自己のウェブサイト上のウェブページに掲載した文章が虚偽の事実であり、これにより営業上の信用を著しく毀損されたとして、被告に対し、不正競争防止法2条1項15号、3条1項、4条、14条に基づき、上記ウェブページの内容を被告のウェブサイトに表示することの差止め、謝罪広告の掲載並びに損害賠償金の支払を求めた事案です。
*1)本件は、他にも争点がありますが、紙面の都合で信用毀損行為該当性に絞って紹介しています。

2 大阪地裁の判断

 大阪地裁は、「本件ウェブページ1及び2が掲載された被告ウェブサイトは、不特定多数の一般人に対して公開されているが、本件ウェブページ1及び2を含む本件連載が『50周年記念サイト』内のコンテンツであること、被告代表者の自伝であること、社内報における連載記事の再掲であること等から、本件ウェブページ1及び2の閲覧者の多くは、被告の事業内容、あるいは被告代表者の業績や人柄に関心を抱く者、具体的には被告の関係者や取引業者、競争相手、油圧式杭圧入引抜機を使用した工事を行う工事業者といった当該業界の者が中心になると考えられる。」として,ウェブページの閲覧者が業界の者であるとして,業界の認識を前提として,「『当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社』、『この会社は平然とコピー機を製造している』、『当社の機械のコピー機をせっせとつくっている件の会社』と記載した際に、土佐機械工業又は原告を指す意図でしたことは明らかである。」と認定した。

写真

 そして,「コピー機」との表記について,「特許権との関係でコピーという表現が使われることは多くはないが、上述した同一性の保持を前提とすると、相手方の製品が自身の製品のコピーであると表現することができるのは、外観、構造等が同一、あるいは区別し得ない程度に類似しているような場合か、少なくとも、相手方の製品が、自身の有する特許発明の技術的範囲に属し、特許権侵害が肯定されるような場合に限られると解される。そうすると、外観等が類似はしていても、全体としては同一とはいえない場合や、機能や基本となる原理が類似していても、特許発明の技術的範囲に属するのではない場合に、これをコピーと表現した場合、本来は特許法その他の法律により違法とされる範囲外の行為について、違法との印象を与える内容を告知することになる。」と一般論を述べた上で,「本件において、土佐機械工業または原告が自らの杭打込引抜機を製造販売することが、特許権を含む被告の何らかの排他的権利を侵害すると認めるに足りる事実の主張、立証はなされていない。」「以上によれば、被告は、原告の製品が、被告の製品をコピーしたものであると表現し得る場合ではないにもかかわらず、本件掲載文1ないし3において、原告の製品を『コピー機』と記載したものであるから、これは、虚偽の事実に当たるというべきであるし、既に検討したところに照らし、競争関係にある原告の営業上の信用を害する行為に当たるというべきである。」と判断した。

3 本裁判例から学ぶこと

 本件はウェブサイトに記載された文章が信用毀損行為に該当するかが争われました。掲載された文章は,一見すると,「高知の小さな会社」と表現されているだけで,対象会社が不特定であり,違法性に乏しいようにも思えます。
 しかし,裁判所は,当該ウェブサイトが業界の者を対象にしているとして,業界の者の認識・知識も加味して,「高知の小さな会社」とは「土佐機械工業又は原告を指す」と認定しています。
 また,裁判所は,「コピー機」との表現についても,実際に特許権侵害がないのに,原告の製品を「コピー機」と記載した行為について,「虚偽の事実に当たるというべきであるし、」「競争関係にある原告の営業上の信用を害する行為に当たる」と認定しています。
 近時の企業活動では,ホームページ等のウェブページに,様々な情報を掲載することが多くなっており,そこでは,各企業活動の詳細が記載されることが少なくありません。
 本裁判例は,他社について情報発信する場合,受け手の認識・知識も加味して違法性が判断される点,及び不用意にネガティブな用語を用いることがリスクがある点,について,教訓を与えてくれます。


※「THE INDEPENDENTS」2020年9月号 - P14より
※掲載時点での情報です