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「音声合成分野における新たなビジネスモデル考察と知財活用」

公開

<話し手>
株式会社テクノスピーチ
代表取締役 大浦 圭一郎 氏
生年月日:1982年2月28日 出身高校:名古屋西高校
名古屋工業大学に入学後、徳田恵一教授に師事して音声認識および音声合成の研究に携わる。音声合成システムの基盤ソフトウェアである『HTS』をはじめ、複数のソフトウェア開発で中心メンバーの一人として活躍。名古屋工業大学大学院博士後期課程在学中の2009年11月に当社創業。2017年度より同大学院の特任准教授に就任。

【株式会社テクノスピーチ】
設 立 :2009年11月19日
所在地 :愛知県名古屋市千種区千種2-22-8 名古屋医工連携インキュベータ 313
資本金 :33,000千円
事業内容:音声/歌声合成技術の研究開発およびライセンス事業
URL :https://www.techno-speech.com/

<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(左)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

音声合成分野における新たなビジネスモデル考察と知財活用


■革新的技術の社会責任


鮫島:貴社の音声/歌声合成技術は従来とは次元の異なるクオリティで、もはや人と区別がつかないレベルに到達していると感じました。これによって、合成音声の活用が進まなかった分野への普及もかなり期待できるのではないでしょうか。


大浦:エンタメ分野では従来型の「機械っぽさ」が残る合成音声を個性として楽しむ層もいますが、音声インターフェース市場はまだまだ拡張できると考えていました。深層学習等のAI技術を用いた音声/歌声合成技術を発表後、教育や医療等、様々な分野から引き合いをいただいています。一方、フェイクなど悪用されるリスクも否定できず、国際的なワークショップでも合成音声と自然音声を見分ける技術について議論がなされています。

鮫島:世の中へのインパクトが大きい技術を有する企業の社会的責任なのかもしれません。人間の音声をここまで忠実にコピーされることはなかったので法的論点になりませんでしたが、今後「声」の人格権についてルールを整備していく必要もでてきますね。


大浦:我々は常に声優など演者の武器でありたいと考えています。レコードが発明された時、演奏家は競合になると過度に恐れていたそうですが、結果彼ら彼女らの収益に大きく貢献したことは歴史が証明しています。「声」の“著作者”にきちんと収益を分配していく、テクノスピーチの音声合成として使用されることがステイタスになる、そんなビジネスモデルを模索中です。そのためにも、例えばネット動画から拾った著名人の音声の無断再現を防ぐため、学習対象の音声のチェック機能を強化するなど、法的・倫理的にグレーな内容は排除していくつもりです。

鮫島:業界発展のためには自助努力だけでは叶わない部分もあります。善意をベースとせず、業界全体で自主規制を設けたり、団体を創設してルール遵守しなければ会員資格を与えないなどといった取組みも必要でしょうね。


■音声/歌声合成事業のビジネスモデル特許


鮫島:技術的な特許は取得されていますが、受託型で一つ一つビジネスにしていくのは途方もない時間がかかります。VCから資金調達され、今後どのような形態で普及モデルをお考えなのでしょうか。


大浦:クラウド型の音声合成サービスをサブスクリプションモデルで展開していきます。利用企業様のサービスに組むこむためのSDK提供や、アップグレードすることで感情表現や音声の種類が追加できるなど、用途に応じてプランを選択できるものを想定しています。

鮫島:貴社の高品質な合成技術だからこそ実現できる機能やサービスを、ビジネスモデル特許として押さえていくことも検討すべきです。ECを運営することは全ての企業が可能ですが、Amazonは「ワンクリック特許」によって利便性で優位に立ち、今のポジションを築いています。音声合成分野でも同様で、周辺特許を押さえることができれば、同程度の品質の技術を持つ企業が仮に参入したとしても、それを活かした機能を提供することができなくなります。


大浦:テクノスピーチにしかできないことをやる、ということは大事にしています。我々の技術を支持してくれる方々を守るためにも必要な戦略だと理解しました。少し話は変わりますが、既に亡くなられている人の音声/歌声の再現は、亡くなった表現者への冒涜だというクレームが上がることもあります。我々の技術なら、ご本人の希望のもとご存命の内に音声を学習し遺しておく、といった使い方も可能性があります。これは、声を失った方に対する一つの解決策にもなる訳です。音声合成が使われるシーンが今後急速に広がっていくだろうという強い実感もある中、知財戦略を有効活用して健全な発展に寄与したいと思います。

鮫島:音声合成分野が貴社の技術革新によって新たなステージに入ったということは、私自身もデモを聞いて確信しました。先駆者としての責任も伴いますが、知財を上手く活用して自社や演者の方々の利益を確保するとともに、この業界を明るい未来へ導いてほしいと思います。本日はありがとうございました。


*対談後のコメント

大浦:これまで、ビジネスモデル特許はあまり意識していませんでしたので、非常に勉強になりました。自社の利益だけでなく演者の方々の利益も確保するというところをご理解いただけるようなビジネスパートナーを見つけて、事業拡大を進めていきたいと思います。

鮫島:画期的な音声合成技術にかかるスタートアップ企業である。様々な用途があるだけに、リソースの少ないスタートアップとしては、重点注力分野、当該分野において事業化に向けて伴奏してくれる企業を選ぶ目(選球眼)が今後の成功のキーとなろう。正しい選球眼を前提としたときに、特許の取得は必ず交渉力の向上を果たす要因となるはずである。


―「THE INDEPENDENTS」2020年9月号 P12-13より
※冊子掲載時点での情報です