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「コロナ禍をポジティブに捉える」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



 依然として新型コロナウィルスの感染拡大は収まらない。5月のゴールデンウイーク明けに解除される予定だった非常事態宣言は5月末まで延期された。筆者も最後に外で人と面談したのは4月上旬、その後はZoomやTeamsでの委員会や会議はあるものの、直接人と会って話すことはなく自宅待機を続けている。NPO法人インデペンデンツクラブの活動も大きく制約されていて、3月から5月までのイベントは残念ながら中止とさせて頂いた。状況は少しずつ改善されているようだが今のところ出口は見えていない。

 経済的な影響は甚大で、2008年秋のリーマンショック以上の落ち込みになるかも知れない。リーマンショック時における日本のGDPの実質成長率は2008年がマイナス1.1%、2009年がマイナス5.4%と2年連続でマイナスとなった。今後この災禍がいつまで続くのかにもよるが、2020年の経済成長のマイナス幅はリーマンを上回るのではないか。

 株価も乱高下している。日経平均株価は昨年末の2万4000円前後から今年3月中旬には1万6000円強まで一気に下落したが、その後は少し盛り返している。リーマン時には2008年の夏頃には1万2000円程度だったものが2009年3月には7000円程度に下落している。率にして40%以上の下落で今のところの今回の下落率はそこまでは行っていない。

 ベンチャー関係で言うと、リーマン時の日本のVC投資額は2007年の1900億円強から2008年には1300億円強に、更に2009年には900億円弱と1000億円を割る水準まで一気に減少した。株式市場でのIPO社数も2007年の年間121社から2008年には49社、更に2009年には19社にまで減少してしまった。今回VC投資額とIPO社数がどこまで落ち込むかまだ予断を許さないが、かなり大きくなることは想像に難くない。

 日本のベンチャー・コミュニティはご承知のように、リーマンショック後の2010年以降若手の起業家の台頭などそれまでとは質の変わった拡大を見せてきただけに、ここに来ての落ち込みは残念ではあるが、ネガティブことばかりを言っていても仕方ない。

 止まない雨はない。先行きにはまだまだ出口が見えていない状況ではあるが、この災禍もやがては落ち着きを取り戻すことは間違いない。その時に向けてこの災いをポジティブに捉えて次に来る新しい時代の中で自身の取るべき方向を考えてみることも必要だと思う。

 既に色々なところで言われているように、今回のコロナ禍は現状の日本おける様々な問題点や課題を浮き彫りにしたように思われる。それは中央集権といった政治制度の問題から9月入学制度への転換といった教育問題、新卒一括採用といった雇用制度問題など多岐に亘る。大袈裟に言えば戦後日本の体制や在り方を根源的に問う問題だと言えなくもない。

   卑近なところでは今回の自宅待機要請に伴い、ITを利用したリモートによるミーティングや在宅勤務の拡大など、働き方改革が進展することはまず間違いない。それに伴い、首都圏への一極集中といった現象にも変化が起こり、それは地方での事業機会や雇用の増加に繋がるかも知れない。いずれにしても何が始まるのか、興味を持って見てみたい。


※「THE INDEPENDENTS」2020年6月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です