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「マーケットアウト主義で大学発ベンチャーへ投資する」

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<瀧口 匡 氏 プロフィール>
1986年に野村證券に入社。野村證券では、財務情報部や事業開発部等を歴任。その後、ベンチャーファンドやヘッジファンドのマネジメントを経て、2005年に早稲田大学の認定ベンチャーキャピタルであるウエルインベストメントの代表取締役社長に就任。多くのベンチャー企業の成長をサポートしてきた。また、2009年に現在の統合報告書の概念の基礎となったインタンジブルズの分野において早稲田大学で博士号を取得した後、早稲田大学グローバルエデュケーションセンター(GEC)や早稲田大学ビジネススクール(WBS)で客員教授を務める。現在、日本ベンチャー学会理事、JST(元文科省)の START プログラム代表事業プロモーター、国立研究開発法人理化学研究所投資等審議委員等を務める。早稲田大学学術博士(国際経営専攻)。

【ウエルインベストメント株式会社】
設 立:1998年6月8日
所在地:東京都新宿区喜久井町65番地 糟屋ビル3階
取締役会長:松田修一(早稲田大学 名誉教授)
代表取締役社長:瀧口匡(早稲田大学客員教授)
取締役:浅海治人(公認会計士)
取締役(非常勤):田口弘((株)エムアウト代表取締役)
       :東出浩教(早稲田大学ビジネススクール 教授)
監査役:西山茂(早稲田大学ビジネススクール 教授)
事業内容:ベンチャーキャピタル及びそれに付随する支援業務


<インデペンデンツクラブ正会員紹介>

ウエルインベストメント株式会社 代表取締役 瀧口 匡 氏


■大学系ベンチャーキャピタルの先駆けとして、これまでに数多くの投資育成実績を有しています

ウエルインベストメントは、1998年に早稲田大学アントレプレヌール研究会(WERU)を母体として設立されました。早稲田大学から一部資金を預かり教員が中心となり運営されていますが、大学と公式な人事交流はなく、大学関係者の意向を投資判断に反映させない独立した機関であることが特徴です。創業当時は、大学の研究成果に投資する考え方は少なく、WERUを中心に集まる人や情報に対する投資が主でした。その代表事例は、ブックオフコーポレーション(株)や(株)YOZANです。最近では、2018年10月30日に東証マザーズへ上場したVALUENEX(株)等、グローバルな成長を目指すテクノロジーベンチャー企業を支援しており、投資先の20社以上が既に株式公開しています。

■これまでの運用実績を教えてください

1号ファンドはWERUメンバーを中心に小規模で組成し、1社数百万円規模で約50社に投資しました。2006年に中小機構のマッチングファンドを活用して20億円のファンドを開始し、以後ターゲットファンドはじめ複数のファンドを運用、現在は時価ベースで約240億円になります。2019年10月、早稲田大学発の知的財産を活用したベンチャー企業の創出を目的とする「早稲田大学提携ベンチャーキャピタル」として認定され、総額10億円規模の早稲田大学専用ファンドも運用しています。

■ディールソーシングはどのように行っていますか

 我々は常に仮説(ストーリー)を持って技術シーズの発掘に取り組んでいます。その仮説は3つの視点に支えられています。一つは、徹底的なマーケット調査です。投資メンバー4名全員で、年間30~40のグローバルなカンファレンスや学会に出席し、最新の技術動向やビジネストレンドをリサーチしています。二つ目に、世界のベンチャー企業100万社のデータベースを独自に構築していることです。グローバルな視点から、現在どういうベンチャー企業が何をやっているのかから、どのようなExitが行われたかまで、ほぼ把握しています。三つ目に、国内外の大学研究者とのネットワークです。
 つまるところ、技術そのものに投資はしないということです。我々はマーケットアウト主義者であり、仮説から成るシナリオがまずあって、それが実現できる技術を探索することで案件組成を行っています。

■具体的な投資事例をお聞かせください

CoreTissue BioEngineering社のケースでは、事業内容をストーリーに基づきピボットするところからスタートしました。同社は、早稲田大学岩﨑清隆教授が開発した生体組織から細胞成分を除去する脱細胞化技術と生体組織の強度保持が可能な滅菌技術を用いて人工の前十字靭帯を開発しています。当初は人工心臓弁の開発を目指していました。しかし、人工心臓弁では、人命に深く関わるため事業化のストーリーを描くことが困難でした。現在の事業領域(ストーリー)を描けるまで長く時間はかかりましたが、当該技術の分野での700~1500億円程度の買収事例も出てくることでExitストーリーを描くことが可能になり、JSTのSTARTプログラムを経て2億円の出資を行うに至りました。

■長く大学発ベンチャーに携わる中で感じる課題はありますか

 一つは、大学が所有する技術シーズの新規性や有効性だけでは、事業化が困難であることです。これまで、優れた技術だけではビジネスに至らなかった事例をたくさん見てきましたし、やはり大学発ベンチャーでは、技術もさることながら優れた事業化のストーリーが不可欠です。もう一つは、やはり経営人財の問題が挙げられます。経営者のリクルーティングにおいては、所属していた企業のブランドや事業規模ではなく、どういう役割を担ってきたかがポイントです。CoreTissue BioEngineering社の城倉社長は、米国Cook Medical社でプロジェクトマネジメント経験を有しており、こういった方は適任です。
 当社では、早稲田大学ビジネススクール卒業生など、150名の経営者候補と300名の経営者予備群のデータベースを独自に構築していることも強みです。投資支援先のステージや領域に応じて、CEOやCOO、CFO、CTOクラスの人材をアサインすることができます。いくら革新的な技術を有していても、誰が担ぐかによって事業化の成功確率は大きく変わってしまいます。

■今後の展望についてお聞かせください

「大学等の『知』を礎として、ビジネスをデザインし、グローバルベンチャーを輩出する。」、これが我々のミッションです。グローバルであることに重きを置くのは、テクノロジーは国境を超えることはもちろん、1社1社丁寧に支援するので大きな果実を投資家に分配する責務があるためです。ポートフォリオの内、社数としては早稲田大学はじめ東京大学や京都大学など国内大学のケースが占めますが、金額としてはスタンフォード大学など海外大学に大きく投資しています。これらから有望な研究シーズを早期に発掘し、仮説検証・シナリオ構築を繰り返しながら、1社でも多くの成功事例を創っていきたいと思います。

■最後にインデペンデンツクラブに対するメッセージをお願いします

1997年に松田修一先生がはじめた事業計画発表会からスタートし、20数年続けてきたことに深く敬意を表します。ベンチャー業界は景気の良し悪しで、新たに参入する人退場する人が絶えませんが、近視眼的な取組みではベンチャーは成功することはできません。長く続けることに大きな価値があると思います。インデペンデンツクラブに継承されてから全国展開へ発展しましたが、東京と地方の橋渡しとしての役割にも期待しておりますし、この活動が長く継続されることを期待します。


※「THE INDEPENDENTS」2020年4月号 - P14より
※冊子掲載時点での情報です