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「インターネット上のショッピングモールが特許権侵害?」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
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平成27年10月8日判決(平成27年(ネ)第10097号)


 今回は、インターネット上のショッピングモールの運営者を被告として特許権侵害訴訟が認められるか、が争われた事例を紹介します。

1 事案

 本件は、ホタテの貝殻の成分を利用した洗浄剤に関する特許権を有する控訴人が、インターネット上のショッピングモール楽天市場を運営する楽天株式会社(被控訴人)が被告製品(洗浄剤)を販売等して控訴人の特許権(本件特許権)を侵害している旨主張し、被控訴人に対し、販売等の差止めを求めた事案です。
 インターネット上のショッピングモールの運営者である楽天株式会社が被告製品を販売等しているかが争われた事例です。

2 知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように判示しました。
「控訴人は,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,販売及び輸出の差止めを請求しているところ,同請求が認められるためには,被控訴人において被告製品の製造,販売及び輸出をしていること又はそのおそれがあることが立証されなければならない。」「証拠(乙ハ1~3)によれば,①被控訴人がインターネット上で運営するショッピングモール「楽天市場」は,出店者が,被控訴人との間の契約に基づき,出店ページを開設するなどして出店者の物品の販売又は役務の提供を行うものであること,②上記物品の売買又は役務の提供は,出店者と上記出店ページを閲覧した者,すなわち,顧客との間で行われ,出店者は,顧客に対し,取引の当事者は出店者と顧客であることを明確に表示する旨が上記ショッピングモールの利用規約(乙ハ1)に明記されていることが認められ,これらの事実によれば,たとえ被告製品が上記ショッピングモール上に紹介されていたとしても,直ちに被控訴人が自ら当該被告製品を販売しているということはできない。」「前記⑴によれば,被控訴人が本件発明を実施したとは認められず,特許法101条所定の行為をしたとも認められないし,そのおそれもないから,被控訴人に対する製造,販売及び輸出の差止請求が認められる余地はない。」

3 本裁判例から学ぶこと

 特許権侵害が認められるのは、被告が特許発明を業として実施した場合です。ここで、「実施」とは、特許法2条3項1号に、「物…の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等…、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出…をする行為」と規定されるので、結局、特許権侵害を提起する原告は、被告が特許発明を譲渡(販売)行為したことを立証する必要があります。
 本件についてみると、インターネット上のショッピングモール楽天市場が被告製品を販売したか?が争点となりました。
本件訴訟に提出された証拠(利用規約等)によると、インターネット上のショッピングモール楽天市場では、楽天市場は、あくまで場を提供しているだけであって、取引は出店者と購入者の間で成立するのであって、楽天市場は販売行為を行っていないと判断した裁判所の結論は妥当な結論だと考えられます。
 特許権侵害訴訟を提起する際には、特に本件のようにインターネットの取引等では、誰が特許発明の実施行為をしたのかを注意深く検討することも必要となってきます。

※「THE INDEPENDENTS」2020年2月号 - P18より
※2019年12月号掲載時点での情報です