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「「兵庫発ベンチャーの活性化に向けて」」

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中野 秀樹 氏(兵庫県 産業労働部 産業振興局 新産業課長)

藤本 良一 氏(日本ベンチャーキャピタル株式会社 執行役員)

岡野 豊 氏 (株式会社東京証券取引所 上場推進部 課長)

<モデレータ>秦 信行 氏(國學院大学 名誉教授 / インデペンデンツクラブ代表理事)


■兵庫県のベンチャー概況

秦:兵庫県の産業の特徴については、神戸製鋼や川崎重工などの企業城下町のようなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
藤本:歴史的には造船や鉄鋼などの重厚長大産業が盛んで、IT系はあまり活発ではありませんが、大学を中心に素材や電子部品のIoTに関わる根幹技術を有しているので、IoT領域を中心に発展性にも期待できると思います。
秦:一方で、ファッションや洋菓子、サービス業でもユニークな企業が出てきているように思います。
藤本:飲食やサービスの分野は日本の国際競争力が高い分野でもあります。外食チェーン大手のトリドールや老舗酒蔵の西山酒造など積極的に海外進出を行う企業が多いです。
秦:最近のIPO動向についてはいかがですか。
岡野:兵庫県の上場企業数は現在122社で、最近では2015年に上場した三機サービスや2018年に上場したイボキン、極東産機など姫路周辺の企業の上場も増えてきています。
藤本:2000年代のITバブル時代は10年で24社が上場を果たしました。それ以降の上場社数は8社(兵庫県本店を加えると9社)で、アパレル大手のワールドや老舗企業が上場している一方、ベンチャーらしい企業はまだ出てきていません。IPO準備段階の企業はあると思うので、今後に期待しています。

■兵庫県のベンチャー支援施策

秦:兵庫県では官民ファンドの運用やコワーキングスペースの運営を通した支援を積極的に行っています。
中野:中小機構、金融機関等から出資を受け、2011年に「ひょうご新産業創造ファンド」を立ち上げました。日本ベンチャーキャピタルに運用を依頼してこれまでに県内企業中心に10社に投資を行いました。当ファンドは3号目という位置づけになります。ネットワーク活動としては、ここ「起業プラザひょうご」を中核としたコミュニティと成長支援を通して起業の裾野の拡大からIPOの支援まで幅広いサポートを行っています。
秦:スタートアップの育成という観点では、大学や研究機関の存在も大きいです。山形県の鶴岡では、慶應大学の先端生命科学研究所が設立されたことによって2000年頃から幾つかの事業が立ち上がりました。兵庫県でも同様の動きはあるのでしょうか。
藤本:神戸大学では社会人大学院でアントレプレナー育成を行っています。理化学研究所
や先端医療技術の国際的な研究開発拠点である神戸医療産業都市など、特にバイオ系の領域で動きがあると聞いています。
中野:兵庫県としてもスタートアップ育成分野における産学連携の取組みは今後一層強化していきたい領域です。

■神戸市のアクセラレーションプログラム「500 KOBE ACCELERATOR」

中野:神戸市では、2016年から500 Start upsと連携した起業家育成プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」をスタートしました。シリコンバレーをはじめ世界各地の約20人のトップメンターからの指導や専門家による講義、コミュニティ形成支援などが受けられます。県としても、参加チームの県内での拠点設立の支援など、地域に根差したものとなるように連携を進めています。
藤本:兵庫県では未だアクセラレーションプログラムの絶対数が少ないので、行政主体に限らず、大企業がスポンサーになるなど様々な形のプログラムが生まれることに期待しています。
秦:シリコンバレーではシードアクセラレータが大成功している一方で、日本ではまだ数が少なく、むしろコーポレートアクセラレータが中心です。特にVCの中で、シードアクセラレータ的により事業立上げを指導するような事業展開も行うようなVCがもっと増えても良いのではないかと思います。
藤本:海外のシードアクセラレータプログラムを見ていて感じるのは、ノミネートするスタートアップのレベルは米国と日本で大差ないということです。一方で、日本にはプログラムの期間中に提供されるメンタリングやネットワークのボリュームや質が圧倒的に不足しています。その結果、元の素材は同程度でも最終的な価値が大きく変わってきてしまうのです。
秦:プログラムの充実はもちろんですが、指導に当たる人間の育成も課題ですね。

■兵庫発スタートアップの活性化を目指して

秦:最後に兵庫県でのスタートアップの活性化に向けて、問題点や課題はありますか。
中野:私たち行政の支援は、創業支援と比べてアクセラレーションの領域では不十分です。様々な場を繋いでコミュニティを強化し、起業の土壌を一層豊かにしていきたいです。特に学生や若者との接点を増やし、彼らの成長に寄与できればと思います。
岡野:自発的にコミュニティが活性化しないのであれば、定期的に外部の人間が盛り上げていくしかありません。当社も行政と協力しつつ、地元の若手経営者とIPOした起業家との交流会を開催し、よりIPOを身近に、目指したいと感じてもらえる取り組みを行っていきます。
藤本:そもそも日本は世界と比較してVC投資額が少なく、ビジネス面でも資金面でも速やかに海外に進出する必要があります。神戸は港町でもあるので、外資系の大企業の日本法人が設置されれば、日本各地の優秀な人材が神戸に集まる可能性もあります。反対に、優秀な人材を海外に派遣することも出来ると思います。華僑やインド人のネットワークからチャンスを見出すことも出来るかもしれません。今こそもう一度歴史を振り返って、海外との接点をアイデンティティとして追求すべきだと思います。
秦:今日のお話を通して、兵庫県のベンチャー活性化に向けた課題が整理できたのではないでしょうか。東京、ひいては世界に対抗できるエコシステムの形成に期待したいと思います。本日はありがとうございました。

※「THE INDEPENDENTS」2019年8月号 - P8-9より
※冊子掲載時点での情報です