「『あたりまえを、あたりまえにしない』ものづくり」

鮫島正洋の知財インタビュー

『あたりまえを、あたりまえにしない』ものづくり

■ 創業の経緯について

鮫島：貴社で販売している撥水性のパーカーは、「あるようでない商品」で大変面白いと思います。機能性を重視した衣類を企画するようになったきっかけは何でしょうか？

木村：以前勤めていた大手アパレルメーカーでは毎年異なる商品を大量に製造していました。しかしいち早くファッショントレンドを届けるということより、何か意味のあるものをエンドユーザーに届けたいという思いが強くなり、2015年に当社を創業しました。会社の理念である「LIFE SPEC」は、「服にまつわるあらゆる常識を壊して、服の不自由さから人々を解放する」ことです。オシャレだから着るのではなく、プロダクト自体を便利で気に入ってくれて、当社の哲学に共感した人に着て欲しいです。

鮫島：私も早速クラウドファンディングで自分と娘の分のパーカーを購入しました。

木村：ありがとうございます。2015年12月にクラウドファンディングにかけたところ、約400万円の開発資金の調達に成功しました。

■ 知財戦略について

鮫島：生活に密着したロングテールの商品を扱うことで経営効率は良くなると思いますが、一方で売れる商品を作れば作るほど模倣品とか後発品がでてきます。貴社のパーカーの特徴は何でしょうか？

木村：一般的なナイロン製のアウトドア向けパーカーは、撥水はするが風通しが悪いので蒸れて着心地が悪い。当社のパーカーは綿性のため物理的にはナイロンより目が粗いのですが、外からの水滴をはじいて体内からの水蒸気を排出する仕組みになっており、機能性と着心地の両立が図れています。「水滴をはじいて体内の水蒸気を通す」特許取得を検討したいと思っています。

鮫島：特許を取るのであれば素材としてではなく、洋服としてとるべきですね。内から外へ水蒸気を出す技術課題は洋服でないと出てこないものでしょう。

木村：撥水技術は世の中にたくさんあり陳腐化していますが、この素材と組み合わせて製品化しているのは当社しかありません。通常のものは目が粗くて撥水処理をしても物理的に中に入ってきてしまいますが、当社は密度の高い生地を使って撥水性を強化しています。

■ 今後の事業戦略

鮫島：撥水以外ではどんなものを作ろうとしていらっしゃいますか？

木村：パーカーのあとに作ったのは、綿100％に見えるポリエステル製品です。伸縮性が高いのが特徴です。また、汗の臭いをとったり、一緒に洗濯したものの臭いをとる綿100％のTシャツや、脇の下の汗が染みてこないシャツなども開発しています。

鮫島：ちなみに洗えるシルクで作ったTシャツは興味はありますか？もともとはアトピーの人向けにシルクで下着を作るところからでた発想なのですが、洗えるシルクを作ったがどうやってマーケットに出していいか分からない会社がありまして、貴社と組んだら面白いことができるんじゃないかと思います。

木村：大変興味があります。シルクは形態安定性を確保するのが大変なので、洗えるようにする技術はすごく難しいと思います。当社では、滋賀県産のちりめん「高島ちぢみ」に注目しています。ドライで速乾性があるため、もともとはパジャマの生地として利用されていましたが、これをTシャツにしたら売れると思っています。

鮫島：通常のアパレルは毎年デザインが変わるのでいちいち意匠を取りませんが、ロングテールで売れるものであれば特許や意匠を取るべきです。「高島ちぢみ」はTシャツとしての新規性があるので意匠がとれると思います。

木村：「LIFE SPEC」の次のフェーズとしては、中古衣料に機能を付加して再加工する「SECOND　LIFE」事業を検討中です。将来的にはIotの分野にも進出していきたいです。

鮫島：日本には貴社のようなユニークなベンチャーがまだまだいっぱいあります。そういう企業をネットワークしたプラットフォームを作ってどんどんビジネスマッチングしていきたいと思っています。本日はありがとうございました。

―「THE INDEPENDENTS」2017年1月号 P22-23より