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「ナノミスト技術で産廃処理から海水淡水化まで環境改善に挑戦していきます」

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【松浦 一雄 略歴】
1962年10月20日、徳島県最古の酒蔵・本家松浦酒造(1804年創業)の長男として生まれる。徳島市立高校出身。1985年 3月山梨大学工学部卒業。1987年3月山梨大学大学院工学研究科修士課程卒業。1987年4月大関(株)総合研究所入所。1996年 3月大阪大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了(工学博士)。1997年 4月(株)本家松浦酒造場入社。2002年10月超音波醸造所有限会社(現ナノミストテクノロジーズ)創業、代表取締役社長に就任。2005年 4月~現在 国立研究開発法人産業技術総合研究所客員研究員(非常勤)。

【ナノミストテクノロジーズ㈱ 概要】
設 立:2002年10月1日
資本金:4億496万円
主要株主:経営陣、産業革新機構、ツネイシパートナーズ、フューチャーベンチャーキャピタル、三井住友海上キャピタル他
所在地:徳島県徳島市撫養町木津字西小沖635-1
事業内容:超音波霧化分離装置の開発設計製造


<起業家インタビュー>

ナノミストテクノロジーズ㈱ 松浦 一雄 氏

「ナノミスト技術で産廃処理から海水淡水化まで環境改善に挑戦していきます。」


飲料濃縮、工場排水、海水淡水、石油精製までナノミストに分離する技術を開発。
日本伝統の酒造り発祥から革新的技術と市場開拓に取り組む徳島発の起業家。

■ 2年前のインデペンデンツクラブでのプレゼンから大きく事業が発展しています。

事業計画が技術シーズから具体的に市場を絞り込んだものになりました。霧化(ナノミスト)分離装置を必要とするユーザーが見えてきた事で事業の方向性が明確になり、大型の資金調達にも成功できました。

■ 常石造船グループから出資を受け、それをきっかけに産業革新機構からも出資を受けています。

農工大・多摩ベンチャーポートにいた中小機構アドバイザーの大野裕深さんに常石造船を紹介いただきました。造船業界は環境規制が厳しくなり、特にNOX対策で困っていたところで、ベンチャーの技術を活用しようと2014年に事業提携から出資へと結びつきました。それをきっかけに翌2015年に産業革新機構や他VCからの出資も決まり、資本金と資本準備金合計額は7億6209万円になりました。(2016年10月現在)

■ 資金調達に成功した要因をどのように考えていますか。

環境エネルギー分野は成長市場として注目されていましたが、ベンチャーが事業展開するためにはテーマを絞る必要があります。私どものナノミスト分離技術は、海水淡水化、工場排水や産業廃棄物処理、ガソリンのリサイクル(石油精製)分野まで幅広いテーマ性がありますが、まずは自分たちでリスクを負える市場に絞って事業実績を積み上げていく点が評価されたと思います。

■ 競争力の源泉である霧化分離技術について教えてください。

混合溶液に「超音波などの振動を加えて分子レベルまでミスト化し、分離・減容・濃縮」する技術です。発生した霧を回収することで、従来の蒸留法よりも低温度、低エネルギーで高効率に各種物質を分離・濃縮・精製する事が可能になります。基本特許取得は1997年ですが、現在40件の周辺特許を取得しています。製造技術に関する知財はノウハウとして外部には公開しません。現在ライバル会社はありませんが、基礎技術は特許で、製造技術は金型で差別化していきます。

■ 造船関係(常石プロジェクト)を最優先し、その後に工場排出、海水淡水化問題に取り組む計画です。

常石グループに対して船舶エンジンへのアタッチメント装置として販売します。産業革新機構から紹介された東京エレクトロンデバイスとは工場排水処理に関して業務提携しました。海水淡水化装置としては、RO膜(逆浸透膜)の代替装置として中東やシンガポールに対しての需要が見込まれます。

■ 実家は徳島を代表する酒造会社ですが、起業の経緯を教えてください。

大阪大学大学院博士課程終了後に就職した大関㈱で研究していたアルコール濃縮技術からミスト分離技術の可能性に注目し独立しました。現在は実家の酒造会社の経営は兄弟に任せていますが、立ち上げから開発資金に苦しんでいました。産総研やNEDOからの研究開発支援を受けていましたが、金融機関からの信頼もなく、友人に社債(新株予約権付)を引き受けてもらい何とか凌いでいました。ともかく資金が無いと精神的余裕が無くなり、細かな金額に拘りすぎて大きな意思決定もできなくなります。外部資本も入って経営陣も強化されて現在は経営の質も違ってきたと思います。

■ 株式上場に向けては人材確保などの課題があると思いますが。

徳島で上場準備経験者採用は困難ですが、新日本有限責任監査法人より出向者を迎える事で管理面が強化されています。業績計画的にはナノミスト分離装置を標準化して収益モデルを確立する事が重要だと考えています。

■ 環境関連の新規上場会社は増えていくと思いますが、参考にする企業があれば教えてください。

類似する上場会社はありませんが、スペースXやテスラモーターズに関わってきた起業家イーロンマスク氏には憧れます。技術とマーケティングの両方にあれだけ秀でている起業家はいないと思います。

※「THE INDEPENDENTS」2017年1月号 - p6-7より