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「ウェラブルIoTのトップ戦略」

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<聞き手(左)>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋さん
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

<話し手(右)>
ミツフジ株式会社
代表取締役 三寺 歩さん
1977年2月7日生。京都府立城陽高校出身。立命館大学経営学部卒業。
在学中に、海外向けネット書店「ねっとほんや」を立ち上げ、海外在住の日本人および日本人コミュニティーに対するB2Cビジネスを展開。
2001年松下電器産業㈱(現・パナソニック)入社。シスコシステムズ、SAPジャパンなどを経て、2014年9月三ツ冨士繊維工業㈱(現・ミツフジ)入社、代表取締役就任。

鮫島正洋の知財インタビュー

ウェラブルIoTのトップ戦略(ミツフジ株式会社)


■ 急成長するウェラブルIoTの市場戦略

【鮫島】世界最先端のウェラブル(着衣型)IoTを開発する貴社の京都インデペンデンツクラブでのプレゼンに大変な魅力を感じました。60年前に創業した京都西陣織工場から綿々と繋がる銀メッキ導電性繊維技術がウェラブルIoT市場に不可欠な存在になっているのも大変興味深くお聞きしました。
【三寺】ウェラブルIoT市場は爆発寸前で供給に向けた我々の開発体制や人材育成が追い付かない状況になっています。我々の海外売上比率は60%ですが、フランスでは癲癇発作を事前検知できるウェラブル衣料が開発され、台湾でもEU向け製品生産など医療分野を中心に実用化が進んでいます。日本の企業は、トライアル段階で取り組みをされているところが多く、海外製品の流入を招いてしまう可能性があると感じています。
【鮫島】今までに存在しなかった新しいマーケットを開拓するビジネスは本当に難しい。人材育成の環境を整えないと成長はできないと思っています。
【三寺】我々の強みは素材レベルからフルカスタマイズできる、アプリケーション開発提案力にあります。銀メッキ糸をゼロベースとして新しいウェラブル製品を造れる。しかしビジネスが成熟していないので、顧客に対して市場の入り方の段階からご一緒に開発する必要があります。化学繊維メーかーや電機メーカーからのカスタマイズ要望対応には限界があります。
【鮫島】貴社の技術は電機的な接続部分に強みがあると聞いています。ウェラブル市場全体は大きいが、その中で自社の重点分野を特定して、そこに集中投資する。そして、投資の結果、開発された技術を特許化して独自性が破られないようにする。これを徹底することによって、そのような分野で銀メッキ繊維を必要とする企業が付き合えるのは貴社だけとなり、ニッチトップ的なポジションを作ることが可能となります。それがベンチャーにとって理にかなった戦略です。

■ 特許戦略と知財法務

【三寺】銀メッキ繊維は汎用的技術なので特許性はありませんが、我々の技術的優位性は何百回もの洗濯に対する耐久性やノイズの入り込みが非常に少なく、電極センサーとしての品質の高さにあります。
【鮫島】まずは対象市場を特定のアプリケーション、つまり、ニッチ市場に絞って特許化する事です。大きな市場で汎用的な範囲を持つ特許取得は非常に難易度が高いのです。グローバルウェラブルIoTの市場規模を考えると、網羅的に特許出願をするコストもベンチャーにとっては大きすぎる。そこで、上述したようなニッチ化をして、市場規模をおさたうえて、必須特許を取得して市場寡占、安定収益を確立するという道をたどることが望ましいと思います。より大きな市場規模を狙うのは、株式上場してからでも遅くはないのです。
【三寺】実は1990年代に銀メッキ繊維の抗菌効果が注目され、多くの企業がわっと来てさっと引いた経験が我々にはあります。その時と同じ感覚が今回あります。お引き合いをいただく企業は共同開発提案をいただきますが、自社でも製品を開発されていて、周辺特許が全部抑えられている状況もありました。そうなりますと、我々零細企業がビジネスにできる規模はせいぜい1億円ぐらいになり、市場プレイヤーをよく把握して事業ロードマップを作っていくことが必要だと痛感しています。
【鮫島】ベンチャー企業の成長においては、大企業の力を借りることも必須です。共同開発契約、その他大企業との契約においては自社のビジネスゴールに沿った契約内容とすることが必要で、それが我々の仕事領域のうち、重要な部分を占めています。

■ ニッチトップへの道

【三寺】我々の技術がウェラブルシャツに採用されても世間の目に触れる事はなかなかありません。我々が製造するRFIDタグの市場価格は約80円に対してメーカーなどへの出荷価格は10円程度です。京都城陽の地からトップブランドを確立し、60年の社業を支えて頂いた地元へ貢献したいと考えています。そのために社名変更をし、ブランディングに取り組んでいます。しかしこのままの状態では、下請け体質からの脱却は難しいのではないかと不安を感じることもあります
【鮫島】絶対にそうはさせません。ニッチ化した市場で知財を確立してニッチトップという、ベンチャーの基本的な事業戦略を実現するサポートを行うべく、知財法務を専門とする事務所を設立しました。私どもには理系出身・知財法務経験が豊かで、大企業の知財部・法務部と互角に渡り合える弁護士が集まっていますので、頼りにしていただければと思っています。

■ 対談後のコメント

【三寺】企業として大きな成長が見込める市場がありながら、それがゆえに様々な課題を現在抱えております。鮫島先生とのお話の中で、解決に至れるヒントや、方向性について示して頂きました。今後、ご指導を頂きながら、大企業のお客様をはじめとして、お役に立ちながらも、自社の競争力を合わせて強化していけるように取り組みたく思います。
【鮫島】技術だけではベンチャー企業は成功しません。マーケットが大きすぎても同様です。ニッチな市場を見つけて、いい技術をどのようにビジネス展開していくか。これがベンチャー企業の成功モデルであり、ミツフジ様はこの両要素を兼ね備えた企業です。そのうえで、成功を実現するためには、知財マネジメントと契約交渉が必要なのです。

<ミツフジ株式会社 概要>

設 立 :1954年5月6日 資本金:54,500千円(株主 経営陣100%)
所在地 :京都府相楽郡精華町光台1-7 けいはんなプラザ
事業内容:銀メッキ導電性繊維の開発・製造・販売、ウェアラブルIoT製品の開発・販売

―機関誌「THE INDEPEDENTS」2016年4月号 P18より

ミツフジ株式会社

住所
京都府相楽郡精華町光台1-7けいはんなプラザ ラボ棟4階
代表者
代表取締役 三寺 歩
設立
1979年3月
資本金
2億400万円
従業員数
23名
事業内容
銀めっき導電性繊維AGposs®(導電性繊維を用いたウェアラブルIoTトータルソリュ ーション事業)
URL
https://www.mitsufuji.co.jp/