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「アベノミクス成長戦略と健康医療ベンチャーの創出」

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大阪大学大学院医学系研究科
臨床遺伝子治療学 教授
森下 竜一 氏

【講師略歴】1962年5月12日生まれ。1983年私立武蔵高等学校卒業。1987年大阪大学医学部卒業。米国スタンフォード大学循環器科研究員、大阪大学助教授大学院医学系研究科遺伝子治療学を経て、2003年より大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授(現職)。1999年メドジーン(現・アンジェスMG)創業、2002年9月東証マザーズ上場(4563)。内閣府規制改革会議委員。内閣官房健康・医療戦略室戦略参与。大阪府・市 特別参与。

 アベノミクス成長戦略で、健康医療政策における大幅な規制改革が進んでいます。そこからは「セルフケア・セルフメディケーション促進」と「医療産業の振興」というビッグピクチャーが見えてきます。医薬品・医療機器分野、一般用医薬品(OTC)・診断薬分野、トクホ・栄養機能食品分野では新たな展開が進んでいます。

 再生医療・遺伝子治療分野では、保険適応も認められ、世界初を目指す先進医療体制が整えられつつあります。再生医療の実用化を促進するための法律も制定され、安全、迅速、円滑に、そして多くの製品がより早く製造販売する事ができるようになりました。  革新的医薬品・医療機器に対しては、イノベーション評価の積極化を行い、日本での開発を促す税制・薬価制度が導入されました。中小企業参入を促そうと、透析器・人口骨・人口呼吸器などの医療機器の審査制度が見直しされています。一般用医薬品(OTC)は99.8%がインターネット販売可能になり、診断薬のOTC化も促進されています。
 トクホ・栄養機能食品においては、機能性表示が容認されました。日本では1兆8000億円の市場規模が3兆円以上になると予想されます。米国では規制緩和で健康食品産業の市場が2倍になっています。サプリメントの医療機関での販売によって、一般健康食品市場の裾野拡大も見込まれます。
 農作物・加工品の機能性表示によって六次化や輸出が期待されています。「温州みかんは、βクリプトキサンチンを含む骨の健康を保つ食品です。更年期以降の女性に適しています」「べにふうき緑茶は、メチル化カテキンを含んでいるため、花粉が気になる方の目や鼻の調子を整えます」などの機能性表示が可能になります。機能性表示農作物の例としては「注目のアミノ酸GABAを含んだ巨大胚米」「抗肥満効果のあるりんご」などが挙げられています。美味しいという価値観だけでなく、機能性アピールによって日本の農業が輸出産業になる日も遠くはないと思います。

 健康寿命延伸産業の果たすべき役割は、新産業創出と医療費削減です。医療をコスト分野から成長投資分野へと転換する健康医療戦略が必要です。病気になる前に自分で管理する「セルフケア、セルフメディケーション」も重要になり、混合診療の原則解禁、在宅医療の推進も図られています。
 医療分野の研究開発の司令塔機能として「日本版NIH」が創設され、健康・医療戦略推進体制ができました。
 「独立行政法人 日本医療研究開発機構」法案も成立し、推進本部には内閣総理大臣も就任し、革新的な医療技術の実用化が加速していきます。日本再興戦略では2020年に、健康増進・予防、生活支援関連産業の市場規模10兆円(現状4兆円)、医療関連産業(医薬品、医療機器、再生医療)16兆円(現状12兆円)が目標です。
 農林水産業は、六次産業化を進め市場規模10兆円(現状1兆円)に拡大、成長産業を目指します。

 証券市場の活性化、クラウド・ファンディング、官民ファンド、国立大学によるベンチャー育成のための環境整備等が進められています。少なくとも2020年まではベンチャー起業環境にとってはプラスの時代が続くと思います。世界中の製薬企業が日本で治験を始め、日本の大学との提携を進め、黄金の国ジパングとして注目されています。このチャンスに世界に飛躍する健康医療ベンチャーが上場していく事を期待しています。

2014年7月14日東京インデペンデンツクラブ 第一部基調講演より